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「星王院くん、わたしはあなたに勉強を教えに来たの。
やる気がないなら今日はもうお暇(いとま)するわ」
背後から囲われる腕を振り払おうとして、押し退けるように伸ばした翠の手首は、逆から伸びてきた蓮の手によっていともたやすく掴まれた。
「センセー、やる気がない生徒の面倒を見るのもセンセーの役目じゃないの?」
「……っ、離して!
離してっ、離しなさいっ」
逃げようと振り上げた翠のもう一方の腕も蓮の前では全くの無力だった。
「ねえ……センセー……」
切ない声色が部屋に響く。
蓮は翠の手を解放し、代わりに翠の首根にしっかりと腕を回した。
背中にぴったりと触れる蓮の胸板から不規則に揺れ動く彼の鼓動が伝わり、翠は思わず抵抗の手を止めていた。
「子供扱いしないでよ。
確かにセンセーから見れば俺はまだ全然子供かもしれないけどさ……」
しゅんと萎んだ蓮の声が徐々にしりすぼみに掠れていくことで、翠は徐々に母性本能に目覚め、抵抗をやめていた。
蓮――星王院蓮には、母親がいない。
蓮を産み落とし、そのまま帰らぬ人となった母。
資産家の父親は母の愛を知らない蓮を不憫に思ってか、欲しがる物は何でも買い与え、一方で多忙を理由に蓮との時間を殆ど持たなかった。
我が儘、自由奔放に生きてきた彼の心の闇を垣間見た思いがして、翠は深く溜め息をついた。
「いいわ……じゃあ、どうすればやる気になるのかしら、星王院くんは」
「蓮って呼んで、センセー」
「……いいわよ、蓮」
甘えたな猫のような子供をあやすように思えばいいのかもしれない。
翠がそっと力を抜き、薄く微笑んだその時だった。
背中でプツンと音が鳴り、締め付けから解放された二つの膨らみが木綿のブラウスの下でぷるんと揺れた。
「…………!! れっ…」
「センセー、お願い」
驚きと怒りが入り交じった声で抵抗を試みようとした翠の頬にちゅっ、と蓮の唇が触れた。
「………………それで、蓮は…やる気になるのね?」
甘えたな猫の声になぜか逆らえず、翠は後ろから伸びてくる手を捕まえて恐る恐る口に出した。
「なるよ……だからセンセー、触っていい?」
誘うように揺れる声色が翠の顔を熱くさせる。
何をやっているのだろう、そう考えるはずの理性は、初めて経験する未知の誘惑を前に思考を止めてしまっていた。
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