第4章 お姉さまと僕(仮)

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 稀少品であるパラス革紐に国紋を象った留め具。  綴じられた皮羊紙を広げれば、国の最重要機関である機密施政省からの密書が眼前に現れる。  ラグーは真正面の椅子に脚を組んで腰掛ける妖艶な美魔女に跪き、恭しくこうべを垂れると、彼女へ向けて広げた文書を緊張の面持ちで掲げた。  「親愛なる西の森の魔女ヴェルサさまに……我が王からの勅命でございます」  上擦ったラグーの声は若干かすれ、喉はカラカラに渇いていた。  士官候補生として試験に合格し、胸を撫で下ろしてからまだたった二週間しか経っていない。  そんな見習いラグーに国の大事を左右する重要な案件が回ってきたなどと、誰が思うだろうか。  齢15に到達したばかりのラグーに正規魔術師のローブは世辞でも似合っているとは言い難い。  小柄な彼にぴったりのローブはすぐにも手配されたものの、結局今回の件には間に合わなかった。  美しく、妖艶な西の魔女の話は音に聞いたもので、あまりの美しさに男たちはたちまち虜になってしまうとか、森から出られずに監禁されるとか、生気を吸い取られるとか――そのような憶測が流れ出してからは、人間は彼女の領域である西の森には一切近付くことはなかった。  今回は異例中の異例だということだ。  魔女のほっそりとした白い指先がラグーの手から密書をするりと抜き去った。  視線を下にしていたラグーは恐る恐る、西の森の魔女ヴェルサに向けて顔を上げた。
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