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「魔女としての依頼で一番厄介な依頼ね……材料のほとんどは貯蔵庫にあるのだけれど、どうしても足りないものがあるのよ」
ヴェルサは高いヒールを鳴らして壁付けの薬品棚に近付くと、棚から瓶を取り上げ、一つ一つテーブルに置いていく。
並べられた瓶には薬草類なのだろう、乾燥した植物の葉や茎などが詰まっている。
瓶の蓋には丁寧にラベルが貼られ、流暢な魔法文字が並んでおり、ラグーの興味をそそった。
「あら、あなた薬草学に興味があるの?
いいわよ、折角の機会ですもの、教えてあげるわ」
二重瞼に散りばめられた星のような睫毛がふっと和らぎ、キャッツアイの流し目がラグーに注がれると、彼はドギマギしながら瓶が並ぶテーブルへと小走りに掛けた。
顔が熱いのはきっと気のせいだと思うことにした。
魔女ヴェルサが愉快そうにクスクスと笑い声を上げるのだが、その声すら小鳥の囀りのようで、ラグーは雑念を振り払おうと頭をブンブンと横に振った。
「乾燥させた薔薇の花びら、香草が4種、これは月明かりのかけら、それと、これが太陽の焦石、あとこれが……」
華奢な肢体でありながらも高い身長のヴェルサがラグーの隣に立っていた。
香のかおりだろうか、ヴェルサから漂う麝香(じゃこう)はラグーから思考能力を奪っていく。
「――聞いているのかしら、坊や?」
突然、耳元に甘い息が吹きかけられたことで、ラグーはビクッと身体を竦ませた。
一度ならず二度までも、自分はどうしてしまったのだろう。
ラグーは申し訳なさそうに「ごめんなさい……」と小さな声を漏らし、しゅんとうなだれた。
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