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この一年の間に、何度もやり取りした電話やメールは、ある日を境に突然途絶え、以来、何の音沙汰もない空虚な日々が続いた。
ガラパゴス携帯からスマートフォンに切り替わり、メールからツイッターやラインへと目まぐるしい変化の波に呑まれていき、保護していたメールや二人の想い出写真は全て物言わなくなった箱の中にしまいこまれた。
かじかむ手にそっと息を吹き掛けて擦り合わせ、想い出から現実に引き返すように空を仰ぐ。
鉛色の空に街灯が煌めき、街が眠りの旅へと準備を始める頃、純雪のカーテンをくぐり、足取りを確かめるようにゆっくりと闇を照らす二つの光が現れた。
駅舎からホーム内に現れた駅員が慌ててアナウンスを流す。
近付いてくる車窓の明かりに人影がちらりと映り、多摩子は大きな瞳を見開いた。
冷えきったベンチからふらふらと立ち上がり、ひとかけらの希望を胸に、暖かな四角い光をとりつかれたように見つめた。
まばたきすることも忘れて、ただただじっと――
どうか……お願い、あの人を…。
冷えきって青紫に変わった唇の裏で、多摩子は祈った。
がたんごとんがたんごとん。
スローモーションの世界に、立ち上がった男性の姿を見つけた。
その瞬間、多摩子はもう何も考えられなくなっていた。
目頭が燃えるように熱かった。
唇がわなわなと震えた。
忘れかけていた情熱を思い出したように、胸が不規則なリズムを刻み、鼻がつんと痛んだ。
脚が震えた。
足元にこぼれ落ちたしずくが、降り積もった雪に穴を開けた。
その時、小さな車両が到着のブザーを鳴らし、ドアが開いた。
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