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薄目を開けると、そこは真っ白い部屋だった。
眩しくて目をしばたかす。
ようやく目が慣れてくると、そこには、まあるくて、つるんとした顔があり、あたしを覗き込んでいた。
「おはよう、なっきお姉ちゃん。たくさん寝たねえ。えらいねえ」
ゆで玉子のような顔にきれいな瞳をのせた航くんが、あたしを誉めて、小さな手で頭をなでてくれた。
「菜月!」
「菜月さん」
たくさんの暖かい人たちが、驚きと安堵の混ざった表情でであたしを囲むように覗き込んだ。
家元、奥様、森野さん、そして、智樹さんがいた。
その顔を見て、あたしは思わず小さく微笑んだ。
「すぐ先生をお呼びいたします」
森野さんが、涙をためていた目を家元に移しそう言うと、またあたしを見て大きくうなずいてから急いで部屋を出て行った。
ああ、森野さん。
急に学校からいなくなったりして、心配かけてしまったに違いない。あとでちゃんと謝らなければ……。
寝ぼけた頭でぼんやりとそう思ってから、自分の腕に点滴らしき管がついているのに気がついた。
あたしはいったいどれだけこうしていたのだろう……。
「菜月さん……?気分はどう?」
奥様がいたわるように声をかけてくれた。
家元も気遣わしげにあたしを見守ってくれている。
「はい……」
大丈夫です、と続けたかったのに、かすれた小さな声しか出ず、自分で驚いた。
すぐに、白衣を着たお医者さんと看護士さんが来て、横になったままのあたしの脈を診てから、聴診器を当てた。
その間だけ、男性陣は慌てて後ろを向いていてくれた。
お医者さんは、いくつか質問をし、あたしはそれに首を振ったり、うなずいたりして答えた。
起き上がろうとしたけど、体に力が入らない。それを止められ、最後にお医者さんは熱を測ってから、みんなに向かって言った。
「もう、大丈夫でしょう。山は越えました。体力がだいぶ落ちていますからね。無理をさせないでください。とにかく休養と栄養が必要ですから」
気を張ってあたしを見守ってくれていた人々がみな、大きな安堵の息を吐いた。
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