第1章

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家元と奥様が、お礼を言ってお医者さんたちを見送る中、智樹さんは一人あたしを見つめ、点滴のついたほうの手をぎゅっと握ってくれた。 その温かい体温とうるんだ瞳が、たくさんの言葉をかけてくれているようだった。 「良かった……。智樹さんが、無事で……」 声を絞りだし言うと、智樹さんは泣きそうな顔をした。 「それはこっちのセリフだ」 あたしはおかしくて小さく笑い、それから妙に安心して、いつのまにかまた、眠りに落ちていた。 それからのあたしは一日の大半眠っている日々が続いた。 それでも徐々に起きている時間が長くなり、食事も流動食だったのが、普通のご飯にようやく変わった。 鷹司家の人々が複数人、交代で付き添いをしてくれ、みつ子さんも来て、あの豪快さであたしを楽しませた。 病院の敷地内を散歩できるまでに体力が回復した頃、家元と奥様、智樹さんがそろって病室を訪れた。 それぞれでは何度も来てくれていたけど、この組み合わせは無かった。 あたしはベッドから起き上がり、背筋をのばして三人を迎えた。 「どうだね、具合は」 家元はそばのイスに腰掛け、やさしく言った。 「はい、みなさんのおかげで、すっかりよくなりました」 実際は、あたしは以前よりまだやせ細っているらしく、みつ子さんにあれも食べろ、これも食べろと毎回たくさんの差し入れをもらっていた。 病院内を散歩していても、すぐ息が切れて、休み休みしか歩けない。 聞いたところによると、あたしはしばらくの間、死んだように眠っていたのだという。 「今日は正気道会のすべてを話しに来たよ。無理せずに疲れたらすぐ言いなさい」 「……はい」 あたしはずっと気になっていたことを思い起こした。 智樹さんを信じる。 そう決めたから、あのとき、意識が無くなる前に智樹さんから聞いたことを、不安になるたびに心の中で繰り返し思い出していた。 家元はあたしをまっすぐに見つめて、大きくうなずくと、口を開いた。 「確かに、負の力を持つ人間を抹殺することが、これまでの正気道会の第一責務であった。その目的のために正気道会は長い歴史の中にあり続けたといっても過言ではない」 どきん、と胸が震えた。だけど、すぐ家元はあたしに笑顔を向けてくれた。
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