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「これが今までの定説だった。
私たちはそれに囚われていた愚かな大人だ。
そこだけ見れば、残念だが、頑なに過去にしがみつき、私たちを欺いて正気道会にもぐりこんでいたあの東条と同じであったのかもしれない……」
家元は一瞬悲痛な顔となり、それからまた笑顔を見せ、続けた。
「しかしな、菜月さん。智樹がさまざまな過去の事象を検討して別の道を見出したんだよ。
負の力を持つ人間の発見はいつもやつらのほうが先だった。そして、邪悪な思想へと導き、染めてしまうのだ。
だが今回は違う。菜月さんは私たちのすぐそばにいた。
だから、智樹は賭けようと言った。正気道会を殺人集団にはしたくない。そんな会の跡を継ぎたくはないと。まだ何にも染まっていない菜月さんなら、歴史における負の力の使い手たちとは違い、正しい道へと導けるのではないか、と」
家元は智樹さんを振り返り、うなずいた。
「智樹の考えは正しかった。菜月さんがうちに嫁いできてくれたときから、私たちは確信をもったよ。あのとき、私たちは心から菜月さんを歓迎していた。……信じてくれるかな」
おどけたように、上目づかいで家元があたしを見た。
あたしは思わず、笑顔になってしまった。
こんなに暖かい人々を一瞬でも疑ったことを悔やんだ。過去の慣例を破り捨て、あたしを救う道を見出してくれた。そうして迎えいれてくれた。
感謝の気持ちでいっぱいだった。
「菜月、これ読んで」
家元の後ろに立っていた智樹さんが紙袋から分厚い本を取り出した。それは『編纂 気の歴史』の30巻だった。
一瞬びくっとしたけど、よく見るとそれは、以前見たものより真新しい表装になっていた。
「前のは誤表記があったから、破棄して作り直したんだよ」
そう言って何事もなかったように、あたしにそれを手渡した。
膝の上に乗せ、その表紙をしばらく見つめた。
顔をあげて智樹さんを見ると、にっこりとうなずいてくれる。
あたしは意を決して、おそるおそるその本を開いた。
新しい本の、インクの匂いをさせた紙をめくり7月4日のページを開いた。
数値 マイナス2150
使用者名 井上菜月
年齢 6歳
ここは同じ。
そのあとの文章をゆっくりと一字一句もらさないように目で追った。
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