第1章

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ドアがガラガラと横に開かれ、入ってきたのはとても懐かしい感じがする人たちだった。 「由美ちゃん!」 先頭を切って由美ちゃんが病室に入り、智樹さんには目もくれずあたしの側に駆け寄った。 「菜月ちゃん!心配してたんだよ」 そう言ってあたしの手をぎゅっと握ってくれた。 その後ろから遠藤くんと、なぜかサッカー部の中川先輩が現れ、智樹さんに気がつき、挨拶をしていた。 学校には病気で入院したということになっていると聞いていた。 「元気そうで良かった。もうすぐ退院できそうだって聞いたから、安心してお見舞いにきたの」 「ありがとう、由美ちゃん。それから遠藤くんも。中川先輩もありがとうございます」 あたしはうれしくて、素直にお礼を言った。 「やあ、菜月ちゃん。本当に良かった。遠藤の教室に行っても君がいないから、本当に心配したよ」 顔を赤らめて近づこうとした中川先輩の手を、智樹さんが後ろからつかんだ。 「そうだ、サッカー部、最近どうだ?予選そろそろ始まるだろう?」 不自然に話しかける智樹さんを見ておかしくなった。 そのすきに遠藤くんが近づいてきた。 「ごめん、どうしても一緒に行くっていうからさ。断れなくって」 申し訳なさそうにこっそりと言った。 「あ、そうそう、担任の東条先生ね、ご両親の具合が悪いらしくて、急に田舎に帰ることになったんだって。最後の挨拶もできないまま、新しい担任の先生になっちゃった。今度の先生もいい先生だけど、東条先生、優しくて人気があったから、みんな残念がってるよ」 「ふ、ふーん」 そういうことになったのか。 智樹さんを傷つけた卑劣な人だったけど、あの、最後の悲しげな顔が浮かんで、消えた。 それからひとしきり学校の近況を聞いたりして、にぎやかな病室となった。 智樹さんもサッカーの話になると熱心に話しに加わり、かつてのサッカー少年を彷彿とさせて、微笑ましかった。
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