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「あ、もうこんな時間だ。ごめん、菜月ちゃん疲れてない?」
窓の外は太陽が傾き、西日がさしていた。ひさしぶりに学校の話ができてうれしくて、あたしも時間を忘れていた。
「ううん、すごく楽しかった。来てくれてありがとね」
「早く退院して学校に来てね。待ってるから」
由美ちゃんはにっこりして言い、遠藤くんと中川先輩を立たせた。
「菜月ちゃん、またね。元気になったら、サッカーの試合見においでよ」
中川先輩が言うと、とたんに智樹さんが憮然とした表情になった。
それには気づかず、由美ちゃんたちは笑顔のまま手を振り、帰って行った。
ぱたん、とドアが閉まってから、しばらく沈黙のときが流れた。
また、二人っきりになってしまった。
急にどきどきが戻ってきて、何か言おうとすると、智樹さんのほうが先に口を開いた。
「ちぇっ。……今日は菜月を独り占めできると思ったのに……」
窓の方に顔を逸らし、智樹さんがつぶやいた。
空は茜色に染まろうとしている。
「疲れただろ。今日はもう帰るよ」
「帰っちゃうの?」
立ち上がろうとした智樹さんは動きを止めて、あたしを驚いたように見つめた。
あたしも、思わず言ってしまった自分の言葉に驚いた。でも、本当に智樹さんに帰って欲しくなかった。もっと一緒にいたかった。
智樹さんは、黙って近づいてきてベッドの端に座ると、そのままあたしを引き寄せてくれた。
「そんな顔されると、帰りたくなくなる」
それから、腕に力がこもった。
とてもとても、こうしているのが心地良かった。
「……ずっと、電車で見ていたのは、俺のほうだよ」
耳元でふいに智樹さんが言った。
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