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「え?」
あたしは何のことかと思って智樹さんの顔を見ようとしたのに、智樹さんは腕の力を弱めてくれなかった。
「菜月の護衛シフトで俺の担当は電車内だった。俺はずっと菜月を見ていたんだ。
もっと菜月の側にいたかった。こう、したかった……。
だから、結婚は俺が言い出したんだ」
智樹さんのことを好きになったあの電車の中……。智樹さんもずっとあたしのことを見ていてくれた……?
「ごめんな、菜月。俺がちゃんと最初に言うべきだった。家元や菜月の父さんに頼んだりせずに、自分で菜月に言わなければいけなかったんだ」
そしてようやく、智樹さんはあたしを離してくれた。
でも、今のあたしは顔がほてっていて、きっと変な顔をしている。
恥ずかしくて下を向いてから、智樹さんを上目遣いで見上げると、智樹さんの視線とぶつかった。
智樹さんがゆっくりと口を開いた。
「ずっと好きだった。これから、ずっと大切にする。……俺と結婚してください」
夕日に染まったように赤い顔をして、智樹さんが言った。
まっすぐにあたしを見つめたその目は吸い込まれそうなほどきれいだった。
おもわず泣きそうになった。
大好きな智樹さんと、これからもずっと一緒にいられるんだ。
その、約束ができるんだ。
あたしは、こらえきれず涙と一緒に笑顔をこぼしながら、大きくうなずいた。
「はい」
とたんに智樹さんは、はにかんだ笑顔を溢れさせ、さっきよりも力強くあたしを抱きしめてくれた。
ここがあたしの居場所。
智樹さんの暖かい息の届くこの場所。
ここにずうっといたいと思った。
おわり^^
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