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「六三四?」 「そう、黒田くん。 三組のさーやが告白して撃沈したんだって」 「え、告白?」 六三四と告白、とっても違和感のある取り合わせ。 さーやは確か女子剣道部のお姫様。 告白じゃなくて決闘を挑んだんじゃないだろうか。 「なによそのリアクション。 武士がモテるの知らないの?」 六三四がモテる── 確かに無愛想ではあるけど顔は整っているのかも知れない。 凛とした雰囲気をカッコイイと言っている女子が何人かいることも知っている。 というか、目の前の咲もその一人。 武士という呼び名だって半分はからかいだけど、あとの半分はしっかりと褒め言葉だったりする。 だけど── 私はそういう風に六三四を異性として意識したことはない。 彼の人柄に好意は持っているし、彼の夢も全力で応援しているつもりだ。 でも私たちの間にあるのは、一般的に男女の間に芽生えるとされる感情とは似ても似つかないものであったし、友情と呼ばれるものですらないように思う。 「モテると言っても、あの六三四と付き合いたいなんて人いるのかなあ……」 彼の頭の中は剣道で占められていて、異性への興味なんてものが混入する余地はない。 「そんなこと言って、本当はあなたたち付き合ってるんじゃないの? 幼なじみで家が隣で、気が付いた頃には好き同士で。 武士には双子のお兄さんがいて、パンチって名前の犬飼ってて、庭にあるプレハブで一緒に勉強して、やがてキスして」 「それだったら六三四は甲子園に行く前に死んじゃうじゃない」 咲って本当は幾つなんだろう? 「まあ三月にある大会の団体戦で大将に抜擢されたから、って理由であのさーや姫を振るあたりが武士らしいっちゃ武士らしいけどね」 「え、大将なの?」 私はまだ聞いていなかった。 それとも聞いていて聞き流していたんだろうか。 どちらでもいい。 どちらにせよとっても嬉しい。 六三四は夢への階段を着実に登っているのだ。 「良かったあ。 おじさんも喜んでるだろうな」 思わずそう呟いてしまい、聞き咎められるかと顔をあげたけど、咲はすでにコップを手に当番が運んできたお茶のヤカンに突進していて、蓋を開いた状態のお弁当だけがこちらを見ていた。 申し訳程度のブロッコリーとから揚げに八幡巻きにウインナー…… 咲、本当に肉食系女子なんだ。
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