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「団体戦の大将に選ばれたの?」
席に着くと、注文をする前に私はそう訊いた。
「ああ。
言ってなかったっけ」
薄手のセーターの上にそれだけ巻いてきたマフラーを解きながら答えた六三四は、どことなくバツがわるそうに見えた。
勉強部屋こそないけど、家が隣は本当。
もっとも商店街の端っこにある立ち飲み屋のウチと、商店街が途切れた所から始まる住宅街の端っこにある六三四の一戸建ての家を、隣同士とするならだけど。
六三四のお父さんはウチのお父さんと友だちなので、ウチのお店にもちょくちょく飲みに来てたりするけど、私たちがお互いの家を行き来することはほとんどない。
私たちが話をする場所は主に商店街にある「かふぇ・ど・くさだ」だ。
一日の大半が剣道漬けである六三四が唯一時間を取れるのが、晩ごはんの後の一、二時間ほど。
その時間帯で未成年者も入れる店となると近所ではここだけなのだ。
カフェを名乗っているが、どちらかというとファストフード店に近い雰囲気だ。
無垢材のテーブルや椅子が印象的な手作り風の小ぢんまりとしたお店で、ケーキもあればフライドポテトもあったりするので高校生の御用達。
こんな時間に晩ごはんを済ませた二人が来ても、お店にとっては売上にもならずただ片付かないだけなのに、店主の香さんはいつでも私たちを愛想よく迎えてくれる。
いつか、お客というよりも弟妹といった感覚なのだと言って笑っていた。
「いらっしゃい」
香さんがお冷やを二つとラミネートされた小さなメニューを持ってきてくれた。
「紅茶とスコーンください」
「オレはコーラを」
「一二三ちゃん、もしもダイエット中じゃなかったらガトーショラはどうかしら?
今日は思ったより出なくって残っちゃってるからサービスするわよ」
「あ、じゃあ私ガトーショコラにします」
「六三四くんもどう?」
「いただきます」
実は私は快活な黒髪のショートカットにえくぼのチャーミングなこのお姉さんに憧れていたりする。
マジックを行う上の演出として人を魅了する表情というものに敏感な私は、だけど、他の人の良いなという顔を眺めるばかりで、素の自分自身がそれらとは程遠いことをはっきりと自覚している。
だからこそ、ナチュラルに魅力的な表情ができる人に強く魅かれるのだろう。
そう、この香さんや朱理くんのような人たちに。
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