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「おめでとう」
六三四の活躍は私にとっては何よりも大切な事だ。
本当に嬉しく思う。
「ありがとう」
六三四は微笑む。
だけど会話は続かない。
彼との間で言葉が行き交わないこと自体は特に苦痛でもないのだけど、こういう時本当はもっと伝えるべきことがあるような気がしてしまう。
そして結局は、言う必要のない言葉を選んでしまうのだ。
「えっと、おじさんも喜んでるんじゃない?」
「親父は、そうだな。
手放しで喜んでるよ」
「そっか、良かった」
「ああ」
あまり良かったとは思っていない風に六三四は頷く。
私はいつも同じ事を言っては後悔をする。
だけどちょうどそこで香さんが飲み物とケーキを持ってきてくれたので、この話はここで中断した。
「団体戦には白峯くんも出るの?」
紅茶を一口啜ってから訊いてみた。
「ああ、アイツは先鋒だよ」
「白峯くんって強い?」
「たぶん三本やれば二本はオレが取る。
だけど、一本は取られると思うよ」
六三四は虚勢を張ったり大口を叩いたりはしない。
彼がそう言うのならば、きっと本当にそうなのだろう。
そして私の認識では、六三四から一本を取るということはかなり強いということになる。
「強いんだね、白峯くん」
「アイツのことが気になるのか?」
不意の言葉だった。
こんな質問をこんな風に六三四にされたことはなかった。
耳や首筋に血液が集まるのが感じられた。
私は何も答えられずに、もう一度紅茶のカップに口を付けた。
六三四の方を見れないので彼が今どんな顔をしているのかは分からない。
ズズッとストローでコーラを飲みきる音がした。
そして一呼吸の間があってから、言葉が投げかけられた。
「別にお前は、そういうのもいいんじゃないか?」
そして六三四は席を立った。
ガトーショコラには全く手が付けられていないままだった。
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