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「いいんじゃないかな?」 六三四と全く同じ台詞を口にしながら香さんは六三四の立った後の席へと腰を下ろした。 「え?」 「ごめんね、話聞こえてたから」 広い店内ではないし、他にお客さんもいなかったから当たり前か。 「あ、いえ」 気恥ずかしくなって私は俯く。 いいんじゃないかとは一体何に対してなんだろう? 「一二三ちゃんが六三四くんの夢を応援するのはもちろん私も応援したいよ。 あれ、変な言い方だね」 そう言って笑うと香さんは六三四が食べなかったガトーシヨコラにフォークを突き立てて一口分を切り取ると、口に運ぶ。 「ん、やっぱり美味しいわね、我ながら」 そう言って、またあははと笑う。 明るい笑い声に釣られるように私も顔を上げると、一口食べてみる。 ビターなかおりが鼻に抜ける。 味はしっとりとしていて濃厚。 すっごく美味しい。 「でもね、幼なじみの夢を応援することと、一二三ちゃん自身の気持ちを大切にすることは矛盾することじゃないと思うの」 モゴモゴと口を動かしながら話すのは少しお行儀が悪いような気がするけど、まるで昨日見たドラマの話でもするようにそう言われると、私の肩から力が抜けるような気がしてくる。 「そうなんでしょうか。 六三四はあれだけ剣道一筋に打ち込んでるのに」 「本当は六三四くんもそうすべきなんだけどなあ」 言うと香さんはまた立ち上がってカウンターへと戻る。 私はその背中に訊き返す。 「六三四も、ですか?」 背中は返事を保留するかのようにケットルに水を入れて火にかける。 濃厚なガトーショコラを食べて、自分の分の飲み物も欲しくなったのだろう。 「そう、六三四くんも。 剣道なんてさ、要はただの棒持っての殴りっこでしょ? 人生の全部を縛られるほどのものじゃないと思うんだよね」 こちらを見ないままの言葉だったが、意外にもその口調は強かった。 「香さん?」 私や六三四の姉的存在が言おうとしているのは、きっと大切なことなのだろうと思った。 知らず知らずのうちに幾分身構えていた。 だけどころっと変わった口調で言われた次の言葉は、私を仰天させた。 「ね、一二三ちゃん。 バレンタインが近いでしょ? その白峯くんだっけ?にバレンタインのチョコを渡さない?」
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