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お客さんはまるで怒っているようなそれでいて泣いているような、何とも言えないすごい顔をしている。 相変わらず続いている揚げ物や焼き物の音に紛れてお客さんがぶつぶつと何かを呟いてるのが聞こえてくる。 バカにしやがって人をなめやがってというのが聞き取れたような気がしたけど、あとはほとんど意味が分からない。 そして、その手に持っている物を見て私は凍りついた。 包丁── お父さんが使っているやつみたいにピカピカはしていないけどそれは間違いなく刃物。 何かを切り裂くための道具が目線の高さまで持ち上げられているという状態が怖くてそれから目線を下げると、今度はお客さんのグニャグニャによれた襟の間に覗く喉仏がゴクリと動くのが見えた。
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