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その時、私は見とれていた。 武道場から出てきた白峯 朱理(しらみね しゅり)くんに。 色白の肌に映える明るい色の髪(染めているのではなく元々そういう色であるらしい)。 剣道着から着替えたばかりで、ネクタイも緩んだままにざっくりと着崩したブレザー姿は、まるでファッション雑誌のワンカットみたい。 美少年と名高い新撰組の沖田総司や厳流の佐々木小次郎などはきっとあんな感じだったに違いない。 よく知らないけど。 「おい、一二三(ひふみ)。 何ぼーっとしてんだよ」 校舎の方へと消える朱理くんの後ろ姿を見送っていた私の頭に、ぽすんと手が乗せられる。 竹刀ダコのゴツゴツとした感触がある手の平に、ほんわりとした温かさを感じて、いつの間にか髪の毛まで冷えていたことに気付く。 私は振り返る。 「六三四(むさし)」 振り返ると竹刀袋を提げた、とりたてて大きくはないのに何となく岩を思わせる男の子。 陰では武士なんてあだ名で呼ばれてる私の幼なじみ、黒田 六三四。 朱理くんとも同じ剣道部の一年生。 二人とも朝練だったのだ。 「珍しいな、ここに来るなんて」 吐く息は白いのに、六三四のネクタイも緩められていた。 シャツは一番上のボタンが開いている。 練習の熱がまだ引かないのだろう。 「うん、今日は早く着いたから」 言いながら私はお弁当の包みを渡す。 10キロのロードワークをこなしてから朝練を行う六三四の朝は早く、お弁当はいつも私が登校する時に彼の家に寄って受け取り、後で教室で渡している。 「ありがとう。 だけど、この辺も人がいない時間帯は気を付けろよ。 血の気の多いのもいるからな」 一階を柔道部、二階を剣道が使用しているこの武道場は学校の敷地の端っこにあって、昼間でもそれらの部員以外の人通りはほとんどない。 朝の、一般の生徒がまだ登校していない時間ともなればなおさらだ。 「うん、分かった。 ありがとう」 そのまま並んで歩き出す。 私たちの教室がある西棟に行く途中、本棟校舎のエントランスに差し掛かった所で、六三四が手を挙げた。 「朱理。 先に教室行ったんじゃなかったのか」 声を掛けたのは六三四だったけど、透明な朝日の中に少し逆光気味の朱理くんのシルエットを見付けたのは、実は私の方が早かった。
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