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私は部活動の代わりに図書委員をしている。 この日は蔵書の整理だった。 ようやくその作業が終わったのが、ちょうど剣道部も終わる頃合いだったので、六三四を待って一緒に帰ることにした。 朱理くんに会えることも実は少しだけ期待していた。 朱理くんは電車通学だが大抵の日は途中まで一緒に帰っていると、六三四から話の中で聞いていたのだ。 二人が知り合ったのは高校に入ってからだが、まるっきりタイプが違うにも関わらず、すぐに親友と呼べるほどに仲が良くなったらしい。 「ねー、一二三ちゃんは部活は何やってるの?」 朱理くんが訊く。 私のささやかな期待はあっさりと実現し、私と六三四、それから朱理くんの三人は六三四を真ん中に夜道を帰っていた。 気を遣ってくれているのか私に向かって積極的に話し掛けてくれる。 呼び方が早々に中井さんから一二三ちゃんに変わっているのは六三四を真似ているのだろう。 「なにも」 図書委員は委員だから部活じゃないしな、などと思ったり、でも何もしていないというのも変に思われないだろうかとか、色々と考えすぎた挙句に出てきた言葉がそれだった。 そして自分のその返答の無愛想さにまた顔が熱くなり俯く。 「へえ、そうなんだ。 部活に縛られないで青春を謳歌するのもいいよね」 剣道で生き生きと青春を謳歌している朱理くんが言っても全く説得力はなかったけど、私を気遣ってくれた言葉だというのが分かるので余計に返答に困って、何とか「うん」とだけ返す。 見かねた六三四が白い溜め息を吐いて口を開く。 「こいつには手品があるから」 たぶん本人はフォローのつもりなのだ。 何の取り柄もない人間ではないと言おうとしてくれているのだ。 だけども私は耳までが熱くなるのを感じる。 手品やってるなんて知られるぐらいなら、まだ無趣味人間だと思われてる方がマシだ。 手品なんて、手品なんて。 手品なんてどう考えても暗い趣味だ。 マニアックでオタクチックで人を騙して喜ぶようなタチの悪い趣味だ。 立ち呑み屋にやってくるおじさんたちなら喜んでくれても、朱理くんは絶対に引くよね。 私は六三四を睨みつける。
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