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私はあと二枚のコインをポケットから取り出して、三枚をずらせて重ねてみせる。 朱理くんに引かれていないかと心配する私とは、二層構造の心の私は半ば自動的に話し慣れた言葉を続ける。 「知ってる? ラスベガスのコインがスロットであっという間に無くなってしまうのは、実は見えない羽が付いているからなの」 私のマジックなんて見慣れてるはずの六三四も真剣な顔で手元を見つめる。 右手に持っていたコインを全て左手に渡す。 「羽があるから――」 両手を軽く振ると左手のコインが二枚になり、そして空だった右手に一枚のコインが表れる。 「手から手に移るのなんて簡単」 「あれ?」 朱理くんが声をあげた。 私はにっこりとした笑顔を作ってから、両手を返してコインの表裏を示す。 「もう一枚」 手を振る。 左手に一枚、右手に二枚。 「最後のも」 両手のコインをよく見せてからさらにもう一度手を振る。 コインは全て右手。 銀色のピカピカとした輝きを見せるよう裏表を見せてから、私はコインをポケットにしまう。 「すごい! 本当にすごい! 剣道で鍛えられてるオレの動体視力をもってしてもどうやったのか全然分からなかったよ」 朱理くんはまるで子供みたいにはしゃいでくれた。 だけど私はコインをしまった途端にまるで魔法が解けたかのように喋れなくなる。 「……ありがとう」 それでも呟きみたいなお礼の言葉だけは何とかぼそぼそと口にする。 「ね、他にも何かやってみせてよ」 「また今度な」 朱理くんのその言葉には、私よりも先に六三四が応えた。 「何でだよ」 不服そうに頬を膨らませた表情も、同い年の男の子に向ける言葉じゃないとは思うんだけど、何というか、可愛い。 対して武士は仏頂面のまま続ける。 「冷え込んできたからな。 こんなとこで風邪なんて引きたくない」 そう言えば、三月に大きな大会の予選があるんだ。 この時期、風邪なんかで貴重な練習時間を潰してしまうわけにはいかないのだろう。 マジックのために足を止めていたが、私たちはまた歩き出した。 「ちぇっ、分かったよ。 六三四のけちんぼ。 一二三ちゃん、絶対また見せてよね」 朱理くんが残念そうにしてくれるのが、嬉しい。 そしてその様子を見た私も、もっと見てもらいたかったな、と残念に思ったのだった。 「うん」
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