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4
日が経つにつれ、後悔が頭をもたげる頻度が増えていく。
あの日以来、マジックを見せる機会はないままだった。
クラスも違う朱理くんとは顔を会わせる機会もほとんどなかった。
たまに廊下で見掛けることがあっても、彼は大抵女子と一緒で(いつも違う子だった)、こちらから話し掛けることなどとてもできなかった。
六三四から、朱理くんがマジックを見たがっているなんて話が出ることもなかった。
あの時一気に膨らんだ気持ちは日を追うごとに萎む。
代わって浮かぶのは、あんな風に調子に乗ってマジックを披露してしまったあの時の自分を地面に埋めてやりたいという思いだった。
埋めて土をならしたら、その上からアスファルトで舗装してやるんだ。
はあ、と知らずに漏れる溜め息。
それを聞きとがめたのは親友の桐嶋 咲(きりしま さき)。
場所は自分の教室。
時は昼休み。
みんなが机を移動してお茶を持ってくるのを待つ間、お弁当の蓋を開ける前の少しの時間。
この学校は当番がお茶を運んできて、みんなに行き渡るまで“待て”の状態なのだ。
「どうしたのよ、まるで乙女みたいに溜め息なんか吐いて」
私は曖昧に首を振る。
「まるで」とか「みたいな」ってのが気になるけど、質問をやり過ごすためにそこには敢えて触れない。
恋の話なんて、いくら咲が相手でも恥ずかしくてできない。
まあ、自称肉食女子の咲の方はガンガンそういう話をしてくるわけだけど。
「ね、ね、聞いた?」
「ううん」
聞いたも何も、何のことだか分からないので、とりあえず否定しておく。
「武士から聞いてないの?」
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