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脳裏に浮かんだ美輪さんに後光がさす。「そんなに怒ったら彼が可愛そうじゃない…」
あのねっとりとした口調が不思議と俺の苛立った心をすぅーっと落ち着かせた。
「先生が心配してんだぞ」
心の中で美輪さんへ合掌。
「…帰りたくないんだ」
睨んでいた目をふいっと横に反らして、そう春輝が小声で答えた。
帰りたくないと言われて、じゃあ今晩泊まっていけばいい…。なんて言えるわけがない。
前回のこともあるから尚更だ。
それに望月という先生に了承を貰わなければいけないんじゃないのか?
冷静に頭の中で考える。
苛立っていたらすぐさま、帰れ!と怒鳴っていて間違いない。
もう一度美輪さんに合掌…。
「おじさん、お願いだから泊めてくれよ」
「だがな…」
春輝はすがるように、俺が受話器を持たないように、両腕をぎゅっと握る。
その仕草と表情に本気で帰りたくはないのだと痛感する。
「お願いだから…」
横に反らした顔を俯かせた。握りしめた手が小刻みに震える。
泣いてるのか?
「おい…」
ピンポーーーン。
春輝の顔を覗こうとしたその時家のチャイムが鳴った。
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