かわいいその子

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どんなに努力しても、どんなに願っても、自分の思い描いた予想図は時として実現できないときもあるもので…。 「おっちゃーん!」 男の子が、俺に向かってこれを買ってくれとアイスクリームの売店前で元気いっぱいに手をふっている。 「なんだ、アイスなんてまだ寒いだろう」 「寒いから食べるんだよ~。それが美味しいってマミたちが言ってた~」 「そういう余計なことは覚えんくていいんだよ」 そう言いながらもSサイズのバニラアイスを頼み、男の子に渡してやる。 小さい舌を出してペロペロとなめる姿を俺はスマホのカメラに1枚おさめた。 「おっちゃんキモい~」 本当に汚らわしいものを見るように、じっとと横目を向けてきた。 「いいじゃねぇーか。今日で保育園最後のアイスクリーム記念だからよ~」 俺は念のためもう一枚写真を撮った。 「それで明日は小学校入学記念のなんかをするんだろ~」 ませた口調は春輝そっくりだ。 里親になると決めた翌年に講習を受け、6月にはなんとか里親の資格を取ることができた。 里親になって6年過ぎた。去年、里親資格を更新した。 里親としての経験はそこそこになってきたが、ついに春輝の里親になることは出来なかった。 少し考えれば春輝の里親になるということは難しかったんだ。 第一にすでに春輝には里親がいた。 第二に里子は児童養護施設が児童相談所に里親を紹介してほしいと要請があがらない限りこっちに話がこないのだ。現に資格を取って半年ちょっとは音沙汰がなかった。 そんなときでも春輝は週末には遊びに来てくれてはいたが…、 夏休みが終わってしばらく過ぎた頃。受験勉強に専念させたいから週末の外出は控えさせてもらう。と望月から話をされた。 それに対して俺は、ダメだとは言えなかったし、言えるわけがねぇー。 (それからずっと疎遠になっちまったんだよな…) 今、思い返してもチクリと胸が痛む。 それに何度も後悔した。外出が許されないなら俺から会いに行けばよかったんじゃないかってな…。 「護(まもる)、うちに着くまえにアイス食べちゃえよ~。歩喜(とき)と歩望(とも)が待ってるからな~」 「うん。見つかるとうるさいんだよ~」 ゆっくり味わっていたアイスを少しかじってぼやく。 「安心しろ、ちゃんとぬかりなしだ!」 とホールケーキの箱を護に見せると、護は俺をにらんで、 「それ、僕のケーキ!」
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