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はあっ。はあっ。息を吐きながら男が迅の顔を見てる。
「山本さん」
とても静かな声で迅は言った。
男の瞳が驚愕に見開かれる。
「山本……隆さん?」
ぽんと、迅が男の肩を叩いた。
「警察に、ね、訴えてもいいけどさ、ここの防犯カメラに全部映ってるだろうから、あなたもただじゃ済まないと思うんだよね」
ひいって声をあげて、男が立ち上がった。
「渋谷の辺りに住んでる人って、そっち系が多いって聞くけど、ほんと?」
「な、なに」
「東京都渋谷区えび……」
「やめろ!」
しゃがんだままで、迅が男を見上げる。
癖のある長めの前髪の間から、何もかもを見通すような瞳が太った男を見つめた。じり、じりっと男が後ずさって、背中を向けて狭い通路を走って行く。
「逃げたね」
しなやかな動きで迅が立ち上がる。
「怪我は?」
差し伸べられた手をつかもうとして、ここが家じゃなくて、店の中で、自分が震えていると気がついた。
「な、ない」
「よかった」
にこりと笑った顔は、いつもの迅で。
「ど、して?」
「ん、帰りが遅いから、ホワイトデーのものでも探しに行ったかなって……学の会社の帰りったら新宿だろ?
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