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迅は探偵だったんだし、人間観察が趣味だとも言っていたから、そういうのが得意なんだっていうのはわかるんだけど。でも、もう四十だってのに、簡単に考えていることを読まれてしまうのもどうなのか。
エレベーターを降りて、連れ立って夜の街を歩く。
「さっきの人、知り合いだった?」
「だれ?」
「さ、触ってた……名前、知ってたよな」
「知らない人だよ」
迅がコートのポケットから見た事のない財布を取り出して、間に挟んであった免許書を振って見せた。
そこにはさっきの男の写真があった。
「後ろポケットに財布を入れちゃダメだよね。あと、財布に免許証もアウトかな」
財布の間に免許証をしまうと、迅が微笑む。
「学に夢中になってたから、抜いたんだ」
「そ、それ、スリじゃ……」
「本気でムカついてたから、腕力で行くとやばいとこまでやっちゃいそうだったからね。心理の方で潰すほうにしたんだけど……」
指を脱臼させる方だって、十分ヤバいと思うんだけど。
迅が財布を見て、う~んって唸る。
「警察に届けたら、連絡行ってビビるかな」
「や、やめろよ。そんなの」
「だよね」
迅が植え込みの上に財布を乗せる。
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