一章

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「梓沙―――!」  その声主は二人の友達である、相良風優。「おはよう!」と朝から元気な挨拶に亜季は若干引いている。だが彼女はそんな事気にしていない、いや、無視をしている方が正しいのかもしれない。 「・・・おはよう」  梓沙は風優の胸に埋まっているので、中々声を発する事が出来なかった。まるで一年以上会えなかったかの様に感激している風優。  彼女はちらっと亜季の方を見た。「一応、おはよう」と真剣な眼差しで言った。彼はさっきの仕返しなのか、無視をした。 「ちょっと―! なんで無視すんのよ」 「お前、人の事言えねぇだろ」  騒がしくしている二人の間でも、梓沙は眠そうにしている。ゲームやりたい、と考えている時もたまに。 「ていうか、少しぐらい待っててくれてもいいじゃん! 何であんたなんかが、あたしより梓沙と登校している時間が長いのよ―!」 「たった三分ぐらいだろ。それに、お前の時間に合わせると電車ギリギリだろ。少しぐらい早起きの練習ぐらいしろ」 「寝る子は育つって言うでしょ、ねぇ梓沙」 「・・・そうだね」  亜季は、はぁと大きく溜息をついた。「何でこんな奴が合格出来たんだ」と小さく愚痴を言った。勿論、風優は梓沙に夢中で耳に入れている訳がない。  誠才学園は校則が他の私立高校よりも厳しくなく、『自由な高校』として呼ばれる事が多い。だがその分、頭の良い学校である。学業では優秀な教師、部活では様々な結果を残している。なのでそこまで良い成績とはいえない風優が受かったのは、神が味方をしてくれたんだと周りが騒いでいる。 「そんな事よりさ! 今日、何かあったっけ」 「そんなんだからお前、一日に一回忘れ物するんだよ」  乱暴な言い方をしながらも、彼女の問いに答えようと、自分のスマホを鞄から取り出す。昨日と一昨日、明日から明後日などの予定が小さな文字でビッシリと詰まっている。 「今日はあれだ、見学会」 「あー、あれね。部活の!」  風優は思い出したのか、元々綺麗な青色の瞳が一気に輝く。  見学会というのは部活の見学の事である。結構な数の部活動があり、良い成績を残している所も多いので、楽しみにしている人も多くいる。
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