始まり

6/7
前へ
/170ページ
次へ
キッチンにある長方形のテーブルには本で見た日本の家庭料理が並ぶ。 ジャガイモ、お肉、人参、あと…糸こんにゃく? これは肉じゃがだ。食べてみたかったから嬉しい! 他は名前は分からないけど、こんがり焼けて油がジュージューと踊っている魚。 とても美味しそう。 「お祖母ちゃん、このお魚は何?」 「秋刀魚。マヒナは初めてが?」 「うん!美味しそう!」 「そかそか。いっぱい食え」 お祖母ちゃんも嬉しそうに笑う。 本当に温かい笑顔。 「いただきます!」 あたしは言うが早く、木の箸を握る。 でも使い慣れてない食器に苦戦した。 「おやおや、箸は難しかったが?ほれ、これを使え」 「ありがとう!お祖母ちゃん!」 差し出されたフォークを受け取り、あたしは秋刀魚と肉じゃがに手を伸ばす。 美味しい!日本にもこんな美味しい料理があるんだ。 お祖母ちゃんと他愛のない会話をしながらの食事は楽しい。 ここに来るまであたしを包んでいた不安は、いつの間にか消えていた。 きっとお祖母ちゃんの温かい雰囲気のおかげだと思う。 こんなに相手とお喋りするのはパパとママ、そしてお姉ちゃんだけだった。 「ご馳走さま!美味しかったよ、お祖母ちゃん!」 「そりゃ良かった。明日はマヒナの食べたいもん作ってやっがらな」 「うん!でも肉じゃがも最高だよ!お祖母ちゃんの料理だいすき!」 お世辞じゃない。 本当にお祖母ちゃんの料理はあたしに幸せをくれた。 「あ、片付けはいいがら。婆ちゃんがやっからマヒナは休みな」 「ううん、お世話になるんだもん。これくらいやらせて」 あたしは自然な笑顔で食器をキッチンに運ぶ。 お米の付いた茶碗は水に浸けておく。これは日本へ来る前にママから習った事。 他にも日本で暮らすのに必要な事は色々と習った。 あの時は渋々だったけど、今思えば習って良かったと思う。 1人暮らしのお祖母ちゃんに、いきなり家族が増えるんだもん。お手伝いくらいしなきゃ。箸の練習も頑張れば良かったなぁ… 「マヒナは良い子だない。おめぇみてぇな孫が居て婆ちゃん幸せだ」 「これくらい普通だよ」 照れ隠しに髪をいじる。絶対あたしの顔は赤くなってるに違いない。 「こんな良い子なら友達もいっぱい居んだべ?」 お祖母ちゃんの言葉にあたしの手が止まった。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加