羊と山羊

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ただ、お父さんが学部長を務める農学部に首席で合格した彼が学部の入学式で新入生代表として挨拶を読んだことは、近辺ではちょっとしたニュースになった。 うちのお母さんが見せてくれた地方新聞には、「能登史雄(ふみお)東奥大教授(53歳)と長男の博史さん(18歳)」が並んで映った写真が大きく載っていた。 国内初のクローンヤギを誕生させた教授とその一人息子は、真っ直ぐな固い髪といい、小さな蒼白い顔といい、険を含んだ大きな目といい、どこか張り付いたような笑顔といい、そっくりな父子というより同じ人の過去と未来の姿に見えた。 “披着羊皮的狼/羊の皮を被った狼“ “狼子野心/狼は子供でも野獣の本性を持つ、悪人の凶悪な本性は改まらない” すぐ向かいのお宅ではあるけれど、小さな頃から博史のお父さんの姿を近所で見かけることはあまりなかった。 「研究に専心する学者」というのが一貫した評判だ。
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