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「来年、北京に行くって聞いたんだけど」
博史は顔を影にしたまま、感情のこもらない声で述べる。
「うん、そう」
私の声も釣られた風に投げやりになった。
「一年くらい、いないんだよね」
相手は変わらず平坦な口調で続ける。
陰になった博史の肩越しに雨がポツリ、ポツリと降り出した。
「そうだよ」
私は頷きながら、折り畳み傘を出すべくカバンの奥を探る。
本当の留学期間は一年よりももう少し短いはずだが、訂正するのが面倒だった。
そんなにつまらないなら、無理して話しかけないで。
私にも予定があるから。
カバンの奥を探る内にも、路地に小さな雫の跡が加速度的に増えていく。
駅舎内の側溝の饐(す)えた水の匂いも微かに漂ってきた。
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