◇鏡の国のアリス◇

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「ジェライエロー……グリージョカルニコ……」  お祖母様に教えてもらった大理石の名前は綺麗な宝石みたい。チェス盤の様に床に敷き詰められた大理石の模様をなぞると、ひんやりと冷たくて気持ちがいい。飾り彫りが施された年季の入った古いマホガニー製のドアがギッと音を立てる。顔を上げると、お祖母様が部屋に入ってきた。 「あらアリス、もう来ていたのね。床の上は冷たいからこちらへおいでなさい」  お祖母様は飴色の革が張られたソファに腰を下ろすと、私を手招きした。 「アリスね、本の続きを読んで欲しくて待ってたの」 「アリスは本当にこの本が好きね。でも今日はね、本はお休みして特別な話をするつもりなのよ。私の見たとても不思議な夢の話」 「ソウスケさんの話じゃないの? アリスね、ソウスケさんのお話がとっても好きなの」  お祖母様は嬉しそうに目を細めた。ソウスケさんはお祖母様の王子様だ。パパもママも誰も知らないけれど、私にだけ内緒で話してくれる、ずっと昔のお話。 「草介さんの話だけど、これはアリスの草介さんのお話なのよ」 「私の王子様のお話!?」  ドキドキした。お祖母様のように私にも王子様が現れるなんて。 「そう、あなたの王子様はね、三月うさぎさんなのよ」 「本に出てくるうさぎの? アリスの王子様はうさぎさんなの?」  ふふっと可愛らしくお祖母様は笑う。 「違うの。三月うさぎさんの格好をした草介さんにとってもよく似た王子様なの」 「わあい、いつ会えるの? お祖母様!」 「アリスが14歳頃になったら。これから話す夢の話を決して忘れては駄目よ」  いつになくお祖母様は真剣に言い聞かせる。きっとこれはとても大切な事なのだ。 「あ、そういえばね。アリスもお祖母様とソウスケさんの夢を見たの」 「まあ、私と草介さんの? それなら先にアリスの夢を教えてくれるかしら」 「あのね、お祖母様が綺麗な真っ白いお家のね、窓の近くにある椅子に座っているの。手には鎖のついたまあるい時計を持っていてね、時々家の入口を見てため息をついてるの」 「銀色の時計かしら」 「そう。お祖母様知っているの? それでね、扉が開いてたっくさんのスプリングローズを抱えたソウスケさんが入って来たの。お祖母様? どうしたの? 泣いているの?」  お祖母様は私を抱きしめると、「ありがとう、アリス」とただ繰り返した。
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