1476人が本棚に入れています
本棚に追加
/314ページ
はる姉に必要とされて、結果、彼女が幸せになれたのなら、こんなに嬉しいことはない。
やっぱオレもドMか。
「はー。でも、まだ実感わけへんな。はる姉はもう人妻なんすよね」
「ええ」
「オレたち、もう南晴奈には会えないんすね」
「どのみち、もう中瀬さんですしね」
「あ。そっか」
現実は結構キツイ。
「……きっとすぐに忘れますよ」
「そんなすぐには無理っすよ」
今さら強がるなよって思ったけど、次の安西さんの言葉にハッとした。
「忘れたいことは憶えてて、忘れたくないことほど忘れてしまうんですよね人間って」
そう言った安西さんの瞳には、うっすらと涙が滲んでいて、こっちまでもらい泣きしそうになった。
失礼な言い方かもしれないけど、この男には悲しみがよく似合う。
不幸や悲哀によって、彼の魅力が引き立っているようにさえ感じる。
しかし、大衆的な居酒屋で膝を付き合わせ、大の男二人が涙目なんてマジでウケる。
オレたちは、そのまま夜更けまで飲んだ。
最初のコメントを投稿しよう!