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彼女は僕に話しかけてきた。
「空を見るのは楽しいですか?」と。
「あ、あぁ…そ、そう…なのか?」
初めて声をかけられたものだから、反応があまりできなかった。上手く、答えられただろうか。たぶんそれはないだろう。
彼女はクスクスと笑みこぼした。何か失態をおかしたようでとても恥ずかしい。
「きっと、好きなんですよ。空を見上げることが。」
ホッとした。しかし、何で僕なんかに話しかけてきたのだろう。
「そう…かな?多分そうだな。」
「えぇ。だって一番いい眺めの席に座っているのだから。」
彼女は話しやすい性格を持っている気がした。
「……えと…、何の本を読んでるのかな?」
突飛すぎた。いきなり話を替えて僕は馬鹿か。そうですねの一言で話は終わっていたのに。
「ふぇ…?あ、この本ですか?『南瓜と雪だるま』って言う題名です。面白いですよ?」
言ってしまったものはしょうがない。話をしなければ…。
「ふ、ふぅん。外国の本?」
「えぇ、北の国の本です。」
「そう言えばこの喫茶店、本が大量におかれてるね。」
「はい、この喫茶店はもともと満天星堂という本屋でしたから。」
旧名『満天星堂』現『カフェ アゼリア』。
店は見渡す限りの、本、本、本。満天星堂の名にあった夜空にひかる幾億の星々の様な本の数であった。
満天星、マンテンボシ…、ドウタンツツジ…か。
「この『カフェ アゼリア』の由来って、意味がドウタンツツジだから?」
「え?そうなんですか。お祖父ちゃんは、満天星堂って。」
意味が解らなかったようだ。余りこういう事は出来るだけ話したくないんだけど。
「満天星って書いて、ドウタンツツジと読めるんだ。だからこの喫茶店の名前を『カフェ アゼリア』と名付けたんだと思う。」
「へぇ、そうなんだ。」
「所で………君の名前は?」
僕は彼女に名前を聞いてしまった。唐突に。
「私の名前ですか?」
「私の名前は………。」
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