第1章

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「それから、重い罪なのは分かるけど、もう一度チャンスも与えてあげてよ。愛するって難しいよ」 『審判の権限は、俺にはない』  こうやって離れていると、親友だった昔に戻った気がする。 「いつか、そっちに帰ったら。又、太陽まで走ってもいいよ。俺、地上で沢山学んでいる。多分、今なら、君を許せるよ。だから、もう少し自由で居させて」 『…分かった』  今なら分かる、何故、俺が地上に来たのか。心を学んで、相手を知る事を学ぶために、俺は地上勤務になったのだ。許すことを学ぶ、それは最大の難所、心の在り方なのかもしれない。  力も返した、これで、本当にヘブンズゲームが終わる。  真里谷は、真里谷の家を処分し、御形の家に引っ越ししてきた。真里谷の実家の阿久津は、真里谷が教祖のように扱われていることに不安を感じていて、御形が預かると言ったときに賛成しかしなかった。  部屋割りは、俺と直哉はそのままに、その隣に真里谷の部屋が出来た。御形の家には、短い期間だったが、遊馬も暮らしていたこともあり、複雑な気分もある。 「家の風呂が、温泉というのが、信じられない」  真里谷が、風呂上りにビールを飲もうとして、叱られていた。  夕食は全員でのルールにも、真里谷が戸惑って、緊張していた。 「慣れだよ」  先輩としてアドバイスすると、真里谷が怒って、俺の頭をポコポコと殴った。 「無能な天使に、先輩顔で言われたくない」  でも、真里谷、確かに頭脳は優秀で、運動神経もいいが、洗濯物を畳んだことはなかった。真里谷、自分で洗濯したこともないそうだ。  御形の家は、基本は、自分の事は自分でする事なので、真里谷は、御形の母親に鍛えられていた。俺はその点、一人暮らしもしていたので、何でも出来た。 「典史ちゃんは、天使としては無能でいいの。ここは、お寺だからね」  御形の母親に、無能のダメ押しをされる。  でも、こう言って貰えると、俺は、ただの人間でいいのだと、気楽になった。変な使命感もない。無能でも、帰れる家がある。  御形の母親が去ると、真里谷もしみじみと笑っていた。 「変な家だよな、俺達が居てもいいなんて…」  真里谷の笑いのツボは、相変わらず分からない。  真里谷は、隠れた才能なのか、教えるのが大変上手で、同じ年ながら俺達の家庭教師も兼ねるようになっていた。
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