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相手の竹刀がアーチを描きながら、自分の頭目掛けて振ってくる。その竹刀が見事に頭にパチン!という音を響かせ、的中するのは、それから数秒後のことである。
「一本!!」
審判がそう言って、その試合は終了した。
「あーあ。ユキオが出るとあんなんだからなー…」
同じ剣道部の部員も、あんな見え見えな相手の攻撃を避けることも受け止めることもできない彼に呆れていた。
「どーせ、俺は……」
その言葉が口癖になってしまったのは、いったいいつからなのだろう………
桜木ユキオは、自分の身体能力の低さに飽き飽きしていた。だが、そんな彼でも、長所はあった。それは、『聴力』。彼の聴力は、人並み外れたところがあったのだ。その聴力の凄みは、『目をつぶっていても、足音だけでその音の主がどの方向から、どれくらいのスピードでやって来るのかがわかる。』のだ。
ユキオはその能力を活かすため、今まで多種多様な運動部に入部してきた。バスケ部、野球部、サッカー部、そして、剣道部。何をやってもダメだった。
なぜ、運動部にこだわるのか。特別やりたいというわけではない。だが、父親がスポーツバカだったのだ。
『俺の息子なんだからスポーツができないはずがない』
それが父親の口癖。だが、ユキオ的には、
どんなにあなたの息子だということが科学的に証明されても、俺は運動神経の「う」の字もない。
ということを断言できる。実際、剣道でもそうだった。相手の踏み込んだタイミング、竹刀を上げた時にする風を切る音を聞けば、だいたい次にどんな攻撃が来るのかは理解できる。だが、それに合わせられるほどの瞬発力がないのだ。
このままじゃ、どんなスポーツをやってもダメなままだな……
試合に負ければ負けるほど、それがどんどんユキオの身に染みてくるのだった。
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