エピローグ。

10/10
384人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
「桔梗」 「あ、動くと和菓子が――」 起き上がった幹太は、後ろへ倒れ込みそうになった私の腕を引っ張り、そのまま寝転ぶ。 幹太の庭で一番大きな花壇は桔梗の花で、多くて大きくて、咲き乱れていく。 「和菓子が潰れちゃう」 「目の前に本物がいるんだから、潰れても構うか。こっちの方が――綺麗だ」 それは、咲き揺れている桔梗の花の事なのか、泣きはらしてぐちゃぐちゃになった情けない顔の私なのか。 一面の桔梗の花の中、幹太の長くて綺麗な指先が私の頬に触れ、涙を掬う。 唇に触れて、優しく薄く開いてしまう。 幹太の胸に置いた手に、幹太の指が絡む。 指輪をなぞりながら、優しく私を包み込んでいく。 息も忘れて埋めれていく桔梗の花の中、初めて心を寄せあえた。 重なって行く私たちの唇を、淡く月が照らして桔梗が隠してくれた。 私たちは、月を見上げ咲き揺れる桔梗と月。 この、距離でいい。 そんな嘘をまた吐くというならば、その背中に噛みついてやる。 桔梗の花の上に、月が落ちてくれた。 そんな、話。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!