第1章

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カグヤは疲れていた。 連日のファンとの交流、一週間に一度のファンイベント。 心身ともに疲労困憊になり、最近は交流とイベントを中止している。 「カグヤさん、そろそろファンと交流してもらえませでしょうか?」 マネージャーを名乗る男はごますりもみてに説得する。 「嫌ったらイヤじゃ。もうお金はたくさんあるじゃろ?働きとうないわ」 正当な理由で駄々をこねはじめた。手足をバタバタさせてまるでお菓子を買ってもらえない幼稚園児のように。 「そう言われましても、ファンもカグヤさんと会うのを楽しみにしているんですよ」 「わらわの楽しみを奪うきか。おじいさんとおばあさんとゆっくりすごしたいのじゃ」 暮らしにゆとりができたため、働く意欲がなくなってしまっていた。 「わかりました。それでは帰ります」 そう言ってマネージャーは帰っていった。 あくる日 おじいさんとおばあさんはとても慌てていた。 「カグヤ、カグヤ、起きとくれ」 おばあさんがカグヤの寝室に入ってきた。 ネグリジェを着て眠気まなこのカグヤは目をこすりながら応える。 「どうしたの?そんなに慌てて」 「ないんじゃ!」 「?」 「どうしよう、なくなってしまった」 「何が?」 おばあさんはカグヤの肩に手を置き、目を見ながら 「お金がないんじゃ」 「銀行から下ろしてくれば」 素っ気ない返事を返す。 おばあさんは持っていた携帯の画面を見せてきた。 そこには、ネットバンクの残高が表示されていた。 「残高    0」 手に握られている携帯を手にとりまじまじと見る。 見間違いかと思ったが、確かに0だ。 携帯も口座もマネージャーが用意してくれたものだ。 口座名義人が「ナナシノゴンベイ」という人だが、気にしないで使ってほしいと渡された。 ネット経由ならこの口座から払えると教えられ色々と購入してきた。 冷蔵庫、洗濯機、テレビ、電子レンジ…etc そのおかげで暮らしはだいぶ楽になった。 たくさん買ったが、まだ残高には『0』がいくつもあった筈だ。 それが『0』一つしかない。 そうだ、マネージャーに聞いてみよう。 今日来ると言っていたから。
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