予言の始まり

8/14
前へ
/69ページ
次へ
男が逃げ出すのを皮切りに騎士団の動けるようになった団員は闇に背を向け一斉に走り出した。 恐怖にすくむ足を鞭打ちながら走り出す。 動けない者の絶命の叫びが後ろから聞こえているが耳には入らない。 生への執念が団員達を駆り立てる。 それが醜い人間の本性が現れた始まりだった。 それからは騎士団の団員同士の蹴落とし合いが続いた。 剣や魔法でかつての仲間の足を切り落とし、生きるための身代わりにする。 その光景にはもはや人としての理性はなかった。 そして逃げているこの男も多くの同胞を踏み台にして今この瞬間を生きている。 生きるために仲間を蹴落とした行為に罪悪感はない。 それほど脳裏に刻まれた記憶は男の精神状態に強い影響を与えていたのだ。 「あと何人仲間を…街の人間を身代わりにすればいいんだよっ…!」 男は走りながら呟いた。 男は脚部に部分強化の魔法を何重にも重ねており、速度や跳躍力は桁外れに上昇していた。 逃げる人を避けて、民家の屋根を速い速度で駆けて跳躍しながら移動していく。 何重にも重ねた部分強化の魔法を維持しつつ移動しているため体にかかる負担は普通の団員ではとてもだが耐えきれるものではない。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加