第1話

荒野の町

で、だ。
先程の説明では魔力から魔法を発動するためのファクターとして詠唱を挙げていたよな？

ところがこの詠唱というヤツがとんでもなく難しいんだ。
比喩表現は苦手だから正直上手く言えないが失敗する要因が無駄にたくさん詰まっている。

詠唱ミスにタイミング、使う魔力量のミスとか…まあとにかく色々な要因が魔法の発動に影響してくるんだよ。
これだけでも詠唱内容の暗記など面倒な訓練を要することがわかるよな。
更に威力や軌道の変化などを加える場合には元の詠唱内容に変更や追加が必要になるため面倒この上ない。

魔法全般言えることだが魔法は失敗すると不発したり場合によっては発動しようとした効果の真逆の効果が発生する。
ごく一部の上級者や洗練された人物は敢えてこの真逆の効果を上手い具合に利用するために失敗する詠唱をすることがあるが基本的に魔法の失敗は良い事とは言えない。

だってさ、せっかく詠唱したのに失敗したら命取りになるし、ましてや自身が発動しようとした魔法で死ぬなんてあったら笑えないだろう？

じゃあ魔法の発動は誰にもできるわけではないのかって？

おいおい、よく前の説明を見たか？
俺は一応「詠唱など」って説明したぞ。

そう、「など」って事は詠唱以外にも魔力を魔法として発動するファクターが他にもあるってことなんだよ。

それが術式（魔法陣）を描いて魔法を発動させるファクターとする「陣詠唱」だ。

簡単に言えば詠唱が声で魔法を発動させるなら陣詠唱は描いて魔法を発動させる感じだな。

この方法も一見すると詠唱と同様に術式を描くために術式を暗記する訓練を要するように思えるが実はそんな必要はない。

ただ術式を記したメモ帳を手元に常時用意すればいいだけだ。

もちろん何も見ずに描けるのが一番なのだがこの方法でもある程度は通用する。

それはこの陣詠唱の欠点や特徴に関係している。

もうこの時点で陣詠唱の欠点は分かるだろう。
発動までに術式を描く必要があるため時間が詠唱以上にかかることだ。
また、欠点とは違うが陣詠唱の使い手は基本的に前線に出るようなタイプではなく後方支援に向いているタイプなのも理由である。

早さもだが第一に前線が時間を稼いでいる間にしっかり発動できる術式を描けることが重要になっているため、暗記していて不安が残る陣詠唱師よりもメモ帳を用意している陣詠唱師の方が必要とされている事実もある。