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「広樹広樹広樹! 事件、大事件!!」
いつもにも増した素っ頓狂な叫び声と、脱兎のごとく走り来る足音。
俺が今、後ろ手に閉めたばかりの図書室の戸を、
ブチ破らんばかりの勢いで開いたのは、
さっき教室前で別れたばかりの、隆。
2月14日、早朝。
特別警戒日、バレンタイン・デーの本日。
他校のリア充どもを目の当たりにしかねない通学時間帯を避けて、
二本も早い電車で登校した、ある意味情けな~い俺と隆は、幼稚園からのご近所腐れ縁である。
始業チャイムまで、一人で雑念を振り払い……もとい、一人の寒さも爽やかに、
次に書く推理小説に使うトリックのネタでも探そうと、図書室に直行した俺だが。
「寒がりのお前に言うちょくけど、図書室にゃストーブはねぇで?」
「は? ああ、ワシのクラスどうせ1時間目は体育じゃけぇ、身体慣らし身体慣らし!」
「……で、今日の大事件は何なんか?」
「おお、それっちゃ!!」
いつもは誰が居ようとお構いなしに、大声で事件の詳細を述べたてる隆が、
今日は珍しく、訳あり顔で俺の傍までにじり寄って来た。
そしてこともあろうに、俺の両肩をがっしと掴み、顔を近づけてくる。
「な……何?」
隆の右腕はさらに俺の背中に回り、俺は鳥肌モノのがんじがらめ状態に追い込まれた。
完全に逃げ腰の俺の耳許に唇を寄せて、隆は囁いた。
「ワシの机に、チョコレートが入っちょった♥」
………………。
「なにぃーっっ!?」
「ラッピングも無うて、差出人の名前とかも無かったけど、明らかに手作りの!」
「てっ手作りチョコじゃぁ!? てめー、許せん!!」
「チョコレート♪
うっほっほー♪
チョコレート♪
うっほっほー♪」
隆は、満面の笑顔で歌いながら、
腰に手を当て俺の周りでぐるぐるとスキップを踏んでやがる。
ちくしょー、幼稚園からの付き合いの俺に断りもなく、どこのどいつから貰いやがった!?
俺でさえ、小学校5年生の時に貰ったっきりなのに。
まさか隆まで、俺を差し置いてリア充の仲間入りをしてしまうのか?
大人の仲間入りをしちゃったりしてしまうのか!?
……ん?
「……ちょ、待てぇや隆。
お前のクラス、確か男ばっかじゃろうが」
「それっちゃ、問題は」
Fin.
(笑)
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