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「じゃけど、足を握る必要あるんすか?
ワシ去年も馬の後ろじゃったけど、先頭の奴とお互いの手首を握り合って、騎手はその上に足を置くだけじゃった」
続けて質問した隆に、ジゴローが難しい顔をして答えた。
「手首を握り合えば、確かに馬は一番安定するけぇの。
じゃが林を安定させるためには、足を握るんが一番じゃ。
お前らの勝負のカギは、騎手の林じゃのぅて、馬のほうにあるとワシは睨んじょる。
特に高橋! お前次第じゃ」
「え? ワシですか?」
いきなり話を振られ、俺は面食らった。
「西は、そうは言うても基礎体力がある。握力も強い。
沖田は毎日竹刀を握って、利き手じゃない右手の握力も大したもんじゃ。足腰も安定しちょる。
一番心配なんはお前じゃ、高橋。
この組み方が出来るかどうかは、お前次第じゃ」
「……」
林の足を握るのは俺じゃないし、別にいいじゃん、
と思ったこの時の俺は、騎馬戦の奥深さを、まだまだ甘くみていた。
「百聞は一見にしかず!
まあやってみぃ。山下ぁ!」
「押忍!!」
げ!! 来た!
すでに準備万端、騎乗した山下先輩!
ってか、騎乗態勢で待ってるとか、どんだけ本気だよ!!
しかし……ゴツい!
騎手の山下先輩だけじゃない、馬がまるで違う。
ただ歩いてるだけなのに、重戦車並の迫力だ。
これを差し置いての、大将なのか、俺達は……。
俺達の前で立ち止まった騎馬は、想像以上の威圧感だった。
今さらながら、大それた役を受けたことが身に沁みてわかってきたよ、もう遅いけど。
「林……林!!」
隆の声に、我に返って見上げると、
騎上の林はすっかり腰が引けて
……どころか、身体全体をエビ反り状態にして、硬直していた。
林の上半身のほとんどは、俺と隆の肩より遥か後ろに伸びてるじゃないか!
どおりで、なんか腕に感じる林のケツの重みが、後ろに寄ってると思った……。
っちゅーか、背骨ってこんなに反るのか!?
初めて林のタコさ加減を目の当たりにした俺は、驚き以上に、いっそ感動さえ覚えていた。
人体の新たな可能性を発見した気分だ。
「柔らかいとは聞いちょったけど、想像を絶するのぅ……」
山下先輩も馬も、四人とも厳つい口をポカンと開けて絶句している。
武道場に残って練習していた奴らも、面白そうに見物していたギャラリーも、
みな点目で囁き合っている。
「何じゃありゃ!」
「タコか? 大将タコか?」
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