俺達の騎馬戦伝説

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「確かにかなり厄介そうじゃ。手が届かん。 斎藤、前進! 目一杯近づけ!」 山下先輩の言葉が終わるか終わらないかのうちに、 馬の先頭、無差別級の巨漢斎藤先輩がずいっと寄って来て、 山下先輩が林に向かって手を伸ばす。 さすが百戦錬磨の騎馬だ。 騎手の意思がいかに素早く的確に馬に伝わるか、 接近戦ではそれが最も重要なんだ。 林もあんな指示出しを、 …………無理か。 「待て!」 ジゴローが、柔道の試合よろしく待てをかけた。 「林、そのまま手を伸ばしてみい」 エビ反ったまま、おそるおそる林が、その長い手を伸ばす。 「まだ届かんか。沖田、ちょっとずつ前進せい」 俺達がジリジリと前進する。 と、山下先輩がニヤリと笑って、 目にも止まらぬ速さで林の手首を掴んだ。 「ひぎゃっ!!」 奇妙な叫び声を上げて、林が身を捩る。 うわわわっ!! 想定外に激しい林の体重移動で、一瞬騎馬が傾き、 沖田の手首を掴んでいた俺の手が、外れた。 幸い、沖田がしっかり林の足を握って持ち上げていたから、慌ててもう一度沖田の手首を掴み直した。 「沖田、その距離じゃ! 林の手が相手に届くギリギリの距離! それを身体に叩き込め。で、テコでもその距離をキープするんじゃ。それが先頭のお前の役目じゃ!」 「おうっ!!」 「西と高橋は、今掴んじょる林の足と沖田の手首、絶対離すな!」 「お、おぅ……」 山下先輩が、不敵に笑む。 「さあ、手加減無しで行くで。覚悟せぇや」 ひ……ひえぇ…… 騎上で、上半身だけでふにゃふにゃと逃げ回る林の体重移動は甚だしく、 俺は何度も沖田の手首を掴む手を滑らせた。 最初は持ちこたえていた沖田も、何度目からかは一人では林の足を支え切れず、 その後林は何度も、身を捩るたびに足を踏み外して落馬する羽目になった。 その日俺達は、20分でギブアップした。 ジゴローが、厳かに告げる。 「わかったじゃろう。特訓が必要なんは、馬のほうじゃ。 鐙の上に足を乗せるだけじゃあ、林のタコ運動を支え切れん。 馬が、林の足を握ることが必要なんじゃ」 頷くしかなかった。 「ええか、お前ら。 あと10日で、林の踏ん張りがきく程度に、握力と腕力を鍛えぇ。 林がどんなに揺れても、お前らが先にバランスを崩すな。踏ん張って持ちこたえる脚力をつけぇ。 林も同じじゃ。少ないチャンスで相手を掴んだら、絶対離さん握力をつけぇ!!」
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