俺達の騎馬戦伝説

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5時間目、応用化学概論。溶解人間ベム。 「にぎにぎしちょるか、沖田、高橋」 「やってますっ!」 「よしよし次23頁! あ、お前らは休まずにぎにぎせい! 隣の奴、沖田と高橋の教科書、めくっちゃれ」 「……」 「我が青組がビビるくらいの、闘い甲斐のある赤組大将、期待しちょるでぇ、ははは!」 「……」 6時間目、体育。生徒指導の鬼将軍。 「にぎにぎ体操ーーっ! 始め!!」 ……いつの間に『ラジオ体操第一』は、『にぎにぎ体操』になったんだ!? いやそれ以前に、なぜ皆の分までにぎにぎボールが……!? 「あ、沖田高橋、お前らはスクワットしながらやれ!」 「……」 ……俺達に、休憩をくれ。 隆と林のクラスも同様で、 授業中はにぎにぎ攻撃、 休み時間中は公開トレーニングの刑を受けているらしい。 林に至っては、腕立て伏せとスクワットに加え、 腹筋のオプションまで科せられた、とかなんとか。 隆と沖田は、何やら嬉々としてこなしているようだが、 俺と林は限りなくヘロヘロだった。 授業中のにぎにぎ、授業の合間のスクワットと腕立て伏せ。 疲れ果てた放課後には、 休む間もなく山下先輩の騎馬とのサシの練習が待っているのだ。 山下先輩はやっぱすげえ。 発するオーラからして違う。 その鋭い差し手を掻い潜り、 馬の上で予測もつかない360度タコ旋回を繰り広げる林は、 あれはあれで一種の神業だ。 ……見た目、果てしなくダサいけど。 練習も3日目。 林は、確かにめったに山下先輩の差し手に捕まることはなかったが、 その代わり、まだ一度も山下先輩を掴んだことがない。 いや、掴もうとしたことすらない。 ジゴローも山下先輩も、次第にイラついてきている。 「林!! ちったぁ自分から向かって行かんか!!」 「たまにゃぁ自分から手を伸ばしてみぃ、タコ!!」 それでも林は、泣きそうな顔で歯を食い縛り、ひたすら逃げ回るだけだった。 俺は、と言えば、筋肉痛もピーク。 胴長の林が縦横無尽にくねくね動き回る馬の重心を維持するのは、 想像以上に難しかった。 何度も落馬し、アザだらけのくせに、そのたび俺達に謝る林。 もう、わかっていた。林が悪いんじゃない。 落馬の原因のほとんどは、俺だ。 林はいつも、左側に落ちる。 俺が、沖田の手首を掴み続けていられないからだ。 重心が左側に傾いた時、俺が支え切れないからだ。 原因は、俺なんだ。
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