俺達の騎馬戦伝説

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抜けるような青空に、まだまだ夏を思わせる太陽が、ギラギラ熱く輝いている。 体育祭は滞りなく進んでいた。 高校の体育祭なんて、普通、観客は少ないものだ。 事実、体育祭として公開することをやめて、 クラスマッチ形式のスポーツ大会としてお茶を濁している高校は多い。 しかし工高伝統の体育祭は違う。 父兄も教師も生徒も、 地域の住民も集う、一大イベントだ。 100m走に湧き、趣向を凝らした障害物走に笑う。 観客参加の借り物競争で楽しみ、 男子の組体操に感嘆する。 各運動部のエキシビションや演武は、来年入学する中学生への勧誘の意味合いもあり、 どこの部も力が入っている。 応援団も、甲子園に次ぐ見せ場として、伝統のバンカラ応援の粋を尽くし、応援合戦を展開する。 男女混合のリレーが終わって、 数少ない女子が、見せ場の創作ダンスで華を添え、 いよいよ残すは、最後のメイン競技、騎馬戦のみ!! 「林、おい大丈夫かお前」 入場口にスタンバイした俺達だが、出番が近づくにつれ、林の様子がおかしくなってきた。 隆の足を掴んで、ずるずるとしゃがみ込んだ。 「ワシ……ようやらん……」 「こらこら林、何言うちょるんか今頃」 「じゃけど、ワシ……」 「とにかく馬に乗れ! 大将がそんなじゃ、士気が上がらんで。 ええかげん、腹ぁ括れぇや!」 「お兄ちゃーん!!」 すぐそばで、女の子の声がした。 耳聡い連中が、聞き慣れない女子の声に、キョロキョロと辺りを見回す。 林が、はっと顔を上げた。 「理沙!! どうしたんか、こんなとこに!」 理沙? え?え? お知り合い? 林の視線の先には、車椅子の女の子の姿があった。 後ろに、医者らしき白衣のおっさんがいて、林に向かって手を振っている。 「先生がねーっ! 1時間だけならいいってーっ! お兄ちゃんの騎馬戦だけ見に来たんよーっ!」 お兄ちゃん、ってことは、林の妹か!? ……俺はロリコン趣味はない。 ロリコン趣味は……ないが、 ちょっと犯罪的に年下のくせに、 超絶!! かっ…可愛いじゃねーか!! 周りの連中もざわめく。 「頑張ってーっ、お兄ちゃーんっ!」 「お……おおっ!」 林の目の色が、変わった。 ……周りの連中の目の色も、変わっていた。
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