俺達の騎馬戦伝説

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いよいよ騎馬戦、まずは団体戦の入場だ。 グラウンドのざわめきが、法螺貝の音色でピタリと静まる。 否が応でも緊張感が高まる。 騎馬戦の入場退場は、吹奏楽部が取り仕切る。 法螺貝の荘厳な音色は、 毎年これを聴くために来場する人がいるくらいの、工高騎馬戦の顔だ。 肺活量勝負の吹奏楽部は、運動部並みに厳しいらしく、 それに耐え、最も肺活量を鍛えた強者に、 騎馬戦の法螺貝を吹く栄誉が与えられるらしい。 法螺貝の音色に被せて、陣太鼓の音が腹に直接響き渡る。 それに乗って青組赤組の騎馬が、ハチマキの青赤も鮮やかに整然と入場し、グラウンドの東西に陣取る。 騎馬の服装は、頭にハチマキを締める以外に特にルールはないが、 大抵みな上半身裸になる。 掴まれたら不利なのがわかっているから、なるべく何も身に付けず、 逆に素肌なら汗で滑るし、もってこい、という訳だ。 整列終了の合図の太鼓が、ドドン!と響いた。 青組大将が、合戦の宣誓と、青組騎馬への激励を述べる。 青組大将は――。 騎手も馬も、すんげぇ巨漢だな! ……え!! 短パンじゃない、あれは…… ……廻し!? まさかの、相撲部かっ!? 「青組ーーっ! 理論の青ーーっ! 冷静の青ーーっ! 山口県立ーーっ、周陽工業高等学校のーーっ! 未完の叡知を結集してーーっ! 正々堂々ーーっ! 戦いますーーっ!」 青組大将は、 相撲部三年元主将、黒木先輩だった。 宣誓に、大歓声が湧き上がる。 「青組ーーっ! 今年も勝つでーーっ!!」 「「「おーーっ!!」」」 赤組主将が二年生のしかも文化部の林になったことで、 青組も戦略を変えてきたんだろうか。 いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃない、 林……林、最初の大仕事、頑張ってくれ、頼む!! 祈るような気持ちで、右肩の上の林を見上げる。 向こうで隆が、同じように切羽詰まった顔で、林を見上げている。 林が息を吸い込んで、顔を上げた。 「赤組ーーっ! 情熱の赤ーーっ! 希望の赤ーーっ! 山口県立ーーっ、周陽工業高等学校のーーっ! 不屈の闘志を結集してーーっ! 正々堂々ーーっ! 戦いますーーっ!」 「赤組ーーっ! 頼りない大将じゃけどーーっ、 ワシは負けませーーんっ!!」 「「「おーーっ!!」」」 やっぱりどっか頼りないが、 林は立派に、宣誓と激励を終えた。 うん、うん。 まるで巣立つ雛鳥を見るようだ、林よ……!! 俺と隆は、感涙にむせんだ。
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