俺達の騎馬戦伝説

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「広樹広樹広樹! 事件、大事件!!」 気怠い夏休み明けの放課後。 壊れるかという大音響を上げて図書室の入口が開き、 ――そして、壊れた。いや、戸ががっつり外れた。 「あ! またやってしもうた。建てつけ悪ぃのう、この戸」 駆け込んで来た隆は、レールから外れた戸板を持ち上げ、ガタガタ嵌め込んでいる。 「またかいや。いつか絶対お前が壊すぃのう、その入口」 「おう!! 慣れ親しんだ図書室の戸に引導渡すんは、絶対ワシじゃ!! ミステリ研部長の名に懸けて、これだけは誰にも譲らんで!」 「あ、そ」 俺達周陽工業高校ミステリー研究会の溜まり場と化している図書室は、 普段使っている校舎とは別棟の、旧校舎にある。 一応創立150年!を誇る伝統校に相応しい、床が抜けそうな木造ボロ校舎だが、 『なんちゃら文化財』に指定されるとかされないとかで、取り壊しを免れたらしい。 たぎる若き血潮を内に秘め、自らを律し、 暴れず騒がず静かに活動する者のみが、出入りを許される聖地。 俺達ミステリ研の根城に相応しい。うん。 「って、お前が引導渡してどうするんじゃ、隆。 曲がりなりにも部長が文化財をブッ壊しでもしたら、 ワシらの貴重な活動場所に出入り禁止にならぁや」 なかなか戸板が嵌まらず、汗をかきかき、まだガタガタやっている隆に溜め息をつきながらも、 今日も一応訊いてみる。 「……で、今日の大事件は何なんか?」 「おお、それよそれ!! 聞いて驚け、なんと林が、騎馬戦の赤組大将に選ばれたんちゃ!!」 「……はあぁ!? 何かの間違いじゃろ?」 「いやいや、三年の柔道部の連中がウチの教室までぞろぞろやって来てのぅ、高らかに宣言して林を拉致ってった」 「拉致って……」 「運動神経はねぇけど、長身と敏捷性と柔軟性はピカいちとか言うて」 「……マジ?」 林は、我がミステリ研の、わずか三人の部員のうちの一人。 確かにヒョロ長いが、優しいだけが取り柄のヘタレだ。 運動経験も無さそうだし、軟派なチャラさだけが売りのあいつが、 何がどうしてそんなことになったんだ!? 「夏休み前の体力テストの結果がこないだ出たじゃろ、どうやらアレが原因らしいで、柔道部の山本によると」 「……ぜってーウラがあるっちゃ、それ」 「今頃特訓でもさせられよるんじゃねぇかのぅ。 あ、やっと嵌まった!」 カラカラと軽快な音をさせて、ようやくレールの上を戸が滑り始めた。
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