俺達の騎馬戦伝説

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包囲網が切れた隙間に、悠然と、山下騎がいた。 山下先輩が、両脇に抱えた青組騎手を、派手に転倒している2騎の馬の上にポスンと落とし、悠々と包囲網の切れ間を抜けて行く。 「あ~あ、斎藤も容赦ねぇのぅ、馬は素人なのに。 可哀想に、ふっ飛んぢょる」 吉田先輩も苦笑い。 我に返った周囲の騎手が、山下騎に手を伸ばしかけ、 山下先輩にギリッと睨まれて、固まった。 俺達は、不思議な静寂の中、難なく包囲網を抜けた。 「林! 号令じゃ!」 青組同様すっかり山下騎の迫力に呑まれていた林を、隆が促す。 我に返った林が、叫んだ。 「赤組全騎ーーっ! 中央囲めーーっ! 赤組全騎ーーっ! 中央囲めーーっ!」 驚いて、わらわらと戻って来た赤組遊撃隊と、 包囲網を解き騎馬を外向きに変えた青組とが、向かい合う。 本格的な合戦が、始まった。 俺達大将騎は、再び鉄壁の守りの中だ。 戦況を眺めながら、山下先輩と斎藤先輩が話す。 「斎藤~。なんであのキレが試合では出んのんか」 「重量級の黒帯相手に、あねぇ簡単に足払いが掛かる訳なかろうが」 「まぁあの場合、馬まで崩さんと危ないけぇのぅ」 ……し、しびれる~!! 男だぜ柔道部!! 山下先輩、斎藤先輩!! ほほ惚れていいっすか!? 「ところでタコ。青組大将に挨拶に行かんか?」 「へ? 挨拶?」 林が間抜けな声を出した。 山下先輩が振り向いて、またニヤリと笑った。 山下騎を筆頭にした護衛陣形のまま、 ゆっくりと青組大将の陣に向かう。 気色ばんだ青組の副将参謀を、 廻しの相撲部大将が抑えた。 「なかなかやってくれるのぅ、黒木」 山下先輩が、笑顔で大将に話しかける。 ……笑顔が怖い。 しかし、廻しの大将に、臆した様子はなかった。 「こっちのセリフじゃ山下。見事に迫力負けしたわ」 五将どうしが団体戦で対峙するという、かつてない場面を、 観客も固唾を呑んで見守っている。 「赤組と違うて、青組の駒は手薄じゃけぇの。 ましてや、ワシも思わぬ成り行きで転がり込んできた大将の座じゃ。 負ける訳にゃいかん」 「……お前と五将戦、やってみたかったのぅ」 「ははは、ワシはそこの噂の二年生大将で充分じゃ」 「見くびんなよ、ワシが認めた大将じゃけぇの。 まあ楽しみにしちょれ」 風に乗って、法螺貝の音が渡る。 陣太鼓のバチが大きく二回、鼓面に振り下ろされて、 団体戦の終了時間を告げた。
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