22人が本棚に入れています
本棚に追加
包囲網が切れた隙間に、悠然と、山下騎がいた。
山下先輩が、両脇に抱えた青組騎手を、派手に転倒している2騎の馬の上にポスンと落とし、悠々と包囲網の切れ間を抜けて行く。
「あ~あ、斎藤も容赦ねぇのぅ、馬は素人なのに。
可哀想に、ふっ飛んぢょる」
吉田先輩も苦笑い。
我に返った周囲の騎手が、山下騎に手を伸ばしかけ、
山下先輩にギリッと睨まれて、固まった。
俺達は、不思議な静寂の中、難なく包囲網を抜けた。
「林! 号令じゃ!」
青組同様すっかり山下騎の迫力に呑まれていた林を、隆が促す。
我に返った林が、叫んだ。
「赤組全騎ーーっ!
中央囲めーーっ!
赤組全騎ーーっ!
中央囲めーーっ!」
驚いて、わらわらと戻って来た赤組遊撃隊と、
包囲網を解き騎馬を外向きに変えた青組とが、向かい合う。
本格的な合戦が、始まった。
俺達大将騎は、再び鉄壁の守りの中だ。
戦況を眺めながら、山下先輩と斎藤先輩が話す。
「斎藤~。なんであのキレが試合では出んのんか」
「重量級の黒帯相手に、あねぇ簡単に足払いが掛かる訳なかろうが」
「まぁあの場合、馬まで崩さんと危ないけぇのぅ」
……し、しびれる~!!
男だぜ柔道部!!
山下先輩、斎藤先輩!!
ほほ惚れていいっすか!?
「ところでタコ。青組大将に挨拶に行かんか?」
「へ? 挨拶?」
林が間抜けな声を出した。
山下先輩が振り向いて、またニヤリと笑った。
山下騎を筆頭にした護衛陣形のまま、
ゆっくりと青組大将の陣に向かう。
気色ばんだ青組の副将参謀を、
廻しの相撲部大将が抑えた。
「なかなかやってくれるのぅ、黒木」
山下先輩が、笑顔で大将に話しかける。
……笑顔が怖い。
しかし、廻しの大将に、臆した様子はなかった。
「こっちのセリフじゃ山下。見事に迫力負けしたわ」
五将どうしが団体戦で対峙するという、かつてない場面を、
観客も固唾を呑んで見守っている。
「赤組と違うて、青組の駒は手薄じゃけぇの。
ましてや、ワシも思わぬ成り行きで転がり込んできた大将の座じゃ。
負ける訳にゃいかん」
「……お前と五将戦、やってみたかったのぅ」
「ははは、ワシはそこの噂の二年生大将で充分じゃ」
「見くびんなよ、ワシが認めた大将じゃけぇの。
まあ楽しみにしちょれ」
風に乗って、法螺貝の音が渡る。
陣太鼓のバチが大きく二回、鼓面に振り下ろされて、
団体戦の終了時間を告げた。
最初のコメントを投稿しよう!