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『騎馬戦』
夏休み明けに行われる我が工高体育祭の、一番の呼び物だ。
昔はどこの体育祭でもメインイベントだったらしいが、
最近では、危険だ野蛮だと取り止める学校が相次いでいる。
しかしそんな世俗の事情などどこ吹く風、
我が工高では未だに、教師も張り切り父兄も盛り上がる、体育祭の花だ。
まあ確かにヤバくはあるが、
こんな血沸き肉躍る競技は、そうそうあるもんじゃない。
いや、俺達はまだしも、『バンカラ』を校風とする昔ながらの伝統を頑なに受け継いでいる、一部の生徒と教師にとっては。
……死語だろ、『バンカラ』がすでに世間では。
もしも騎馬戦が競技から外されるようなことになれば、おそらく暴動が起きるに違いない。
おもに、普段体育系部活動をせず、体力の使い道を探している輩とか、
部活動を引退して鬱憤を晴らす場所を探している三年生とかを中心に。
……いや、暴動の一番の首謀者はきっと教師だ。
特に技術系の先生や体育会系部活の顧問コーチ連中は、ほとんどがウチのOB。
騎馬戦の練習だ作戦会議だと目の色変えてるのはむしろ、
安全確保という名目で騎馬戦の指導に当たる、教師連中の方な気がする。
騎馬戦の練習のために、甲子園出場ン回の伝統ある野球部の練習でさえ、当然のごとく休みになるのだ!
並みの入れ込み方じゃないのだ!!
タラタラした授業の時の態度から一変し、
騎馬戦の戦術を熱く滔々と語る教師を前にして、
騎馬戦じたいへの参加が初めてで、影響されやすい多感な高校1年生だった去年の俺と隆は、
あっさり洗脳された。
――深い!!
奥が深いぜ騎馬戦!!
『広樹お前、『騎馬戦の秘密』っちゅー推理小説1本書かんか?』
『2・3本書けそうな気がするのぅ。
……でもそのタイトルはベタ過ぎ、却下』
脳ミソ筋肉とばかり思っていた体育会系の奴らが、決してそうではないのだと思い知らされた、
忘れ難い出来事だった。
まあ隆はああ見えても、中学時代は野球部主将だったからな、補欠だったけど。
野球の腕と、主将としての人望や力量は別物だってことは、俺でも解る。
……林もそうなのか?
……いや、無いな!
廊下からドスドスと複数の足音がして、図書室の前でピタリと止まった。
「西ぃ~、高橋ぃ~……」
情けない林の声がして、それに反して勢い良く戸が開く。
ガラガラッ、ガッ……タン。
「あ、……」
戸板が、また外れた。
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