俺達の騎馬戦伝説

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慌てて戸板を支えたのは、物理教師にして柔道部顧問の加納。通称ジゴロー。 その向こうに、警察に連行される犯人よろしく、 柔道着の強面三年生二人に両腕を取られた林が、泣きそうな顔で立っていた。 戸板を鮮やかに一発でレールに嵌め込んで、 再び仁王立ちしたジゴローが、俺達をじろり、と睨んだ。 「西隆くんと、高橋広樹くんじゃの?」 「そそそうすけど」 「君達に、赤組大将の馬を命ずる!」 なっ……なにぃーーっ!? 「ごっ、ごめん! お前らの馬じゃなきゃやらん、て言うたら諦めてくれるかと思うて……」 「はっ林……」 俺達を巻き込むなーーっ!! 「大将の騎馬は、三年生がやるんが伝統じゃないんすか?」 隆が冷静に切り返した。 そ、そうだ隆、頼む! こういう時こそ、口八丁手八丁のお前の出番だ! 俺の脳裡には、去年の壮絶な大将戦の光景が、ぐるぐると蘇っていた。 「今年でワシも定年じゃ。3年連続負け続きの赤組じゃが、ワシが機械科総括の今年、必ず勝つ! 化学電気の若造どもに、必ず一泡吹かせちゃる! そのためにゃ伝統なんぞ、構っちゃおれん!!」 ……教師の争いを持ち込むなーーっ!! 体育祭の組分けは、青と赤。 理論と冷静の青。 情熱と希望の赤。 我が工高のシンボルカラーだ。 各学年に機械科2クラス、応用化学科・電気科各1クラスの我が校では、 化学と電気が青組、機械が赤組、と決まっていて、 体育祭は実質、科の対抗戦だ。 俺と隆は、クラスは違うが同じ機械科。 もちろん、隆と同じクラスの林もだ。 赤組となる機械科には、チームカラーに象徴されるがごとく血の気の多い奴が、化学や電気よりも、確かに多い。 その中で隆は、おちゃらけながらも冷静な判断と見る目を持った、青の部類に入る奴だ。 「もう一人の馬をどんな奴がやっても、 青組の大将に勝てるとは思えんです」 頑張れ隆っ! 「機械の身体能力は、化学電気よりも高い! 事実、個人種目の合計得点は、毎年ウチの方が上じゃ。 しかし騎馬戦には勝てん! 西、なぜじゃと思う?」 「……騎馬戦は頭脳戦の側面が強いけぇ、ですかね」 「その通りじゃ!! 我々機械科はこれまで、力勝負の正攻法こそ武士の道と、頑なに卑怯な戦法を避けてきた」 「卑怯って、頭脳戦は立派な正攻法じゃと思うけど」 「そうなんじゃ、よう言うた、西!!」 ジゴローは、ずいっと隆に歩み寄り、その両肩を掴んだ。
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