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「去年、耳タコで聴かされたじゃろ、騎馬戦の極意」
「おう。騎手は手の長い奴」
「馬の先頭は、当たり負けしないガタイのいい奴」
「高くて頑丈な馬」
「馬にパワーがなければ機動力で動き回って勝負」
「団体戦は単独行動せず、複数で相手の1騎を囲め」
「単独戦は、タイミングを計って騎馬のバランスを崩せ」
「押すより引っぱれ。騎手を掴んで馬ごと下がれば、相手は勝手に崩れる」
代わる代わる答える俺と林に、隆が満足げに頷く。
「林に最適じゃと思わんか? 騎手」
「手が長いだけじゃぁや」
隆はふふんと鼻で笑い、意味ありげに俺に問いかけた。
「広樹お前、体力テストの立位体前屈、何㎝じゃった?」
「りつ……何?」
「気をつけの姿勢から前に屈んで、床下に何㎝手が出るか測るやつ。ワシ2㎝」
「ああ、あれ!
そんな名前じゃったんか。ワシ、マイナス。床に手なんか届かん。
ワシの身体が硬いの、幼稚園からの腐れ縁のお前なら知っちょろうが」
「まぁの。で、広樹はクラスが違うけぇ知らんじゃろうけど、林、35㎝」
「……さっ、……」
35ぉ!?
俺は目を剥いた。
人間の身体かそれは!?
違うだろ絶対!!
「タコじゃろ林、お前タコ決定!!
上海雑技団に行け、タコ!!」
驚愕して林を凝視する俺に、したり顔で隆は続けた。
「ただ柔らかいだけじゃねぇんちゃ、林は。
体育の柔道でも、柔道部の奴がかけようとした寝技、関節技、ことごとく外して逃げる。
一対一の接近戦になった時、逃げるだけなら超一流なんちゃ、こいつ」
「……ある意味すげぇ」
「ヘタレの本能爆発、っちゅーとこじゃの」
「褒められちょる? ワシ」
……なに嬉しそうにしてんだタコ林。
まさかその気になったりしてないだろうな!?
隆に丸め込まれるな!!
俺は大将騎の馬なんか御免だ!
「逃げてばっかじゃ、所詮勝てんじゃろうが」
「反復横跳びも意外や好成績。
リズム感とバランスも抜群じゃの」
「……」
「胴と手は長い。
逃げるだけなら抜群の柔軟性と反射神経。
安定したバランス」
「……」
「ジゴローの見立て通り、ワシは林の大将、イケると思う。
団体戦は、副将や参謀が周りを固めてくれるけぇ、安心じゃろ?
あとは一騎討ちの大将戦で、いかに逃げつつ一発勝負で相手を掴んで引っ張れるか、
その間、いかに下を支える馬が踏ん張れるかじゃ」
「……」
……なるほど。一理はある。
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