俺達の騎馬戦伝説

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確かにそうだ。 考えてみれば、大将ほど安全な地位はない。 団体戦では周りを固く守られ、 大将戦では正々堂々の一騎討ちで、取り囲まれて袋叩きなどという悲惨な状況は、あり得ないじゃないか。 去年団体戦で、屈強な青組三年生3騎に囲まれ、 馬までケチョンケチョンにKOされた恐怖体験が蘇り、 思わず俺は身震いした。 工高の騎馬戦は、まず青組赤組30騎ずつの団体戦から始まる。 グラウンドに、勢揃いした青と赤のハチマキ各30騎が向かい合い、 太鼓の合図で一斉に相手の陣地に向け飛び出していく光景は、 ハタから見れば壮観だ。 騎手が落ちるか馬が崩れれば、その騎馬はリタイアとなり、 戦列を外れなければならない。 巷では、騎手がハチマキを奪われれば負け、なんてルールもあるようだが、 我がバンカラ工高では、頑なにこのルールを採用しない。 ハチマキ狙いだと騎手の能力の高さのみに頼りがちになり、 騎馬戦の醍醐味である、騎手と馬とが一体となった闘いにならない。 また、後ろから忍び寄ってハチマキだけ狙うなど言語道断。 というのが表向きの理由で、 本音はただ、騎馬同士の肉弾戦をやりたいんだろ、見たいんだろ!? と、思っているのは、俺だけではないはずだ。 10分間の闘いの後に、より多くの騎馬を残した組が、団体戦の勝ち点を獲る。 ただし、それは大将が生き残っていることが条件で、大将がやられればその時点で相手の勝利が決まる。 だから騎馬数が劣勢となると、起死回生を狙って、相手の大将に集中攻撃を仕掛けるのが常だが、 大将は手厚く守られるし、 工高騎馬戦史上、団体戦で大将がやられたことはいまだかつて無いらしい。 この安心感は大きいよな、うん。 団体戦のケリがつくと、次に五将戦。 参謀2騎、副将2騎、大将1騎の5騎のみがそれぞれ闘う、一騎討ちだ。 参謀と副将の勝負はいわばエキシビションで、勝敗そのものには関係ない。 勝負は、大将どうしの一騎討ちで決まり、 勝った大将の組にのみ大きな勝ち点が入り、 さらに参謀副将戦の勝ち数までが加算される仕組みだ。 団体戦の勝ち点は少ないし、負けた組にも残った騎馬数に応じて得点が入るから、大きな得点差はつかない。 全体の勝敗は、大将戦で決まると言っても過言ではない。 この大将戦さえ何とかなれば……。 どうせ直接闘うのは林なんだし……。 いや、それにしたって大将の馬は荷が重いよな……。
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