俺達の騎馬戦伝説

9/26
前へ
/28ページ
次へ
予想外のトントン拍子に、逆に拍子抜けしていると、ジゴローが俺達を呼んだ。 「もう一人の馬は、こいつにせい。お前らの弱点を補う、最適の人材じゃ。 高橋のクラスじゃけぇ知っちょるぃの」 剣道部の沖田じゃないか。 ガタイのいい、一本気な奴だ。 「……ええんか沖田、こんな大役、っちゅーか貧乏クジ」 「おう!! 敵に後ろは見せん主義じゃ!」 「……あ、そ」 「よし、メンツは揃うた! 早速練習せい!!」 「えっ!! 今から!?」 「当たり前じゃ! あと10日しかないんど。 山下が相手するっちゅーてわざわざ残ってくれちょる。存分に胸ぇ借りて来い!」 「……山下、って」 「柔道部三年元主将の山下に決まっちょろうが」 「……」 降って湧いたような二年生大将のせいで、今回副将に甘んじているが、 本来なら当然大将を務めていたはずの、柔道五段の山下先輩が! あの、近所のヤッちゃんでさえ目を伏せて通り過ぎると噂の、山下先輩が……。 いきなり俺達の練習相手、だと? 林がひきつっている。 俺も……帰りたい。 「……ワシ、腹具合が」 「許さーん!!」 目を三角にしたジゴローを前に、しぶしぶ騎馬を組む。 ここで、騎馬戦をよく知らない人のために、遅ればせながら騎馬の組み方を説明しておこう。 騎手が乗る馬は、普通三人で組む。 先頭に一人。後方に横並びで二人。 ジゴローは、沖田を先頭に、沖田の右後ろに隆、左後ろに俺を配置した。 後方二人、俺と隆は、それぞれの内側の腕を前に伸ばし、先頭の沖田の自分寄りの肩を掴む。 この二本の腕を鞍に見立てて、騎手の林はこれを跨いで座る。 俺と隆の外側の腕は、沖田が後ろに差し出した腕と繋ぐ。 この繋いだ腕が鐙(あぶみ)となり、林はこの上に足をかけるのだ。 鐙の組み手に、ジゴローの細かいチェックが入る。 「西も高橋も右利きよの? 左利きの沖田は、左手のひらで林の左足をしっかり握れ。沖田の手首を、高橋は下からしっかり握って支える。 林の右足は、西が右手のひらで握るんじゃ。 で、西の手首を、沖田が下から握って支える。 西と沖田が利き手で林の足を掴んで、林を安定させるんじゃ」 「ほー。沖田が左利きじゃけぇ、林の両足を、馬が利き手で握れる訳か」 隆が感心したように呟いた。 「その通り! 沖田はそれを考えての人選じゃ」
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加