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――――そうだった。エリート大学出のくせにそれを鼻にかける事も無く、仕事も出来て見た目良し。我が社の独身女子社員がこぞって狙いをつけている評判の男。『有森省吾、25歳』。ただいまモテ街道まっしぐら、だ。
――――そう。あの後仕事が立て込んで、すっかり忘れていた。
「私が振られるとこ、見てたんだ?」
「すいません。ちょうど通りがかったもので。でも、俺には先輩が振ったように見えましたけど?」
嬉しい気遣いをする奴。しかし、
「男の目から見て、あのタイプは駄目です」
痛い所を突いてくる。
「すいませんね、見る目が無くて。だけどおかげですっきりしたわ」
「それは良かった。じゃあ、フリーになった事だし、新しい恋でも始めましょうよ」
「はぁ?あのねぇ、30過ぎると右から左って訳にはいかないのよ。若い君と一緒にしないでもらいたいわね」
――――よくまぁ、簡単に言ってくれること。君のような人生モテ街道。私の地図には無いんですからね。
すると、ひと呼吸おいて奴が言った。
「右から左に『俺』ってのは、どうです?」と至って真面目な声で。
「は?ちょっと、何言ってんの?どの口が言ってんの?バッカじゃないの?男と別れて、ついさっきまで泣きべそかいてた年上女に言う言葉じゃないでしょう?」
慌てて本気で憎まれ口を叩く私。
何だか顔が熱い…気もしたりして。
「う~ん。それもそうか~。じゃあ、もう少し先延ばしにします」
「あのねぇ、有森省吾。君は私をからかいたい訳?確かにさっきは見っとも無いところを見せたかもしれないけど、だからって君に同情される筋合いはないわよ」
「同情、ですか…。まぁ、先輩の弱みに付け込んだみたいでタイミング悪かったなと反省はしますけど。でも同情じゃないですよ。俺は本気です」
――――まったく。よく真顔で言えるもんだわ。とことん手馴れてるって訳ね。
「はいはい。解ったわよ、ありがとね。気持ちだけ、ありがた~く頂いとく。あ、そこのコンビニで降ろしてくれる?」
マンションから一筋手前にあるコンビニ前で車から降りた。
「一応、お礼は言っとく。ありがとう。だけど、さっきの話は右から左に流したからご心配なく。じゃあね」
何故だか、もの凄い早口で。
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